セブン&アイがセブンイレブンになるべきではない理由

関谷 信之

米投資ファンド「バリューアクト(バリューアクト・キャピタル・マネジメント )」が、セブン&アイ(株式会社セブン&アイ・ホールディングス)に揺さぶりをかけている。

彼らの「提案」はイトーヨーカドーを売却し、コンビニエンスストア:セブンイレブンに注力せよ、というもの。次回の株主総会では、現社長の井阪氏含む取締役4人の退任を提案する、とも述べている。

だが、コンビニ業界の将来は、長期的に見て芳しいものではない。フランチャイズオーナーになりたい、という人が少ないからだ。

以下詳しく述べる。

利益率「3%」対「26%」

バリューアクトの主張はこうだ。セブン&アイのスーパーストア事業の利益率は、わずか1%。対して、国内コンビニ事業は「26%」もある(※1-1)。ほとんど利益が出ないスーパーはやめて、利益率の高いコンビニに集中しようじゃないか、と。

だが、考えてみてほしい。なぜ、スーパーストア事業が儲からないのに、同じ「小売業」のコンビニ事業が儲かるのか。営業時間が長いから? 商品単価が高いから? いや違う。それなら、フランチャイズ化せず直営店を展開するはず。だが、直営店は全体のわずか2%でしかない(※1-2)。

理由の一つは高いロイヤリティ。もう一つは、コンビニ本部(=フランチャイザー 以下本部)の費用が極端に少ないことだ。

本来、本部が負担すべき加工費、廃棄費、教育訓練費などの費用を、フランチャイズ店舗(フランチャイジー 以下店舗)が負担している。結果、店舗の利益率は「3%」(※1-3 )。セブン&アイのコンビニ事業の利益率「26%」に比べ、あまりにも低い。

会社を退職し、退職金でコンビニオーナーになる人が少なくない、と聞く。ほとんど休まず働き、獲得した売上から、原価70%、ロイヤリティ15%(※1-4)、費用12%が引かれ、余った「3%」で、税金を払い生活費を捻出する。同業のファミリーマート株の配当利回り「3.39%」(※1-5)より低い利益率は、あまりに寂しい結果ではなかろうか。

それぞれ、費用を順にみていく。

ステルス性の高い「加工費」

コンビニ売上の3%を占めると言われるのが、レジ横のアメリカンドッグや唐揚げなど「ファストフード」だ。人気も高いがコストも高い。加工に手間がかかるからだ。

価格100円のファストフードの場合、粗利は50円。ここから、本部の取り分27円を差し引いた、「23円」が店舗利益だ。同額の通常食品の店舗利益「16円」に比べ、「儲かる」と本部は推奨する。

だが、実際はそうならない。解凍する。揚げる。器にのせる。工程が変わる都度手を洗う。厚生労働省が推奨する手洗いは1分間。時給換算すると約18円だ(※2-1)。これら加工の手間を考慮すると、ファストフードはほとんど赤字になるという(※2-2)。

こういった加工費は、原価計算をしない限り数値に表れない。「忙しいのに儲からない」といった状態を招きやすいのだ。

廃棄費はさらに増える

廃棄費で問題となるのは「コンビニ会計」である。商品を廃棄しても、費用として認めず、本部の利益をかさ上げする、独特の計算方式だ。2009年の公正取引委員会「排除措置命令」以降、一部で改善されたものの、いまだ廃棄した商品原価の多くが店舗負担となっている。

この廃棄費が、さらに増える可能性がある。2024年問題だ。時間外労働規制がトラックドライバーに適用されるため、配送員不足が懸念されている。ローソンは、これを見越して、1日3回の配送を2回に減らす。これは、需要予測が難しくなるということ、売れ残りが増えるということを意味する。1日の売上(日販)が50万円程度の店舗の場合、廃棄費は1万3千円程度(※3-1)。この負担がさらに大きくなる可能性がある。

まず教えるのは「日本語」から

大分減ったようにみえる外国人労働者だが、コンビニではいまだ主力選手だ。

最初に、彼ら(彼女ら)に教えるのは「仕事」ではない。「日本語」だ。通常業務ができるようになるまで半年程度かかるという。

日本人なら、教育に手がかからない…というわけではない。コンビニのサービスが増えすぎたのだ。宅配便の受け渡し。公共料金収納代行。マルチ機能で複雑化するコピー機。最近では、バーコード決済まで。これらの対応を一から教えなければならない。相手は、高校生からシルバー世代までと幅広い。本部から送られてくるマニュアルは“焼け石に水”だ。「もう教えられない」と、オーナーは嘆く。

将来的にオーナーは減っていく

教わる側も大変だ。サービスが多すぎて覚えきれない。若者は、コンビニでバイトするとき、駅前など客の多い店舗を避け、楽そうな店舗をSNSで探す、という。

セブン&アイは、アルバイト期間を経験としてカウントし、ロイヤリティを割り引く「インセンティブ・チャージ」(従業員独立支援制度)を導入している。アルバイトのオーナー化が目的だ。

だが、「賢い」彼ら(彼女ら)が、キツくて儲からないと知っている彼らが、将来コンビニのオーナーになりたいと思うだろうか。

現在のオーナーたちの高齢化も進んでいる。

「自分も長くはやれない」
「15年後にはおそらく引退してる」
「今後10年後、15年後コンビニを経営する人がいなくなる」

コンビニの存続自体を危ぶむ声が、オーナーたちから出始めている。

衰退するかしないかは環境次第

コンビニが、衰退するかしないかはフランチャイズ店舗の環境次第だ。

環境がこのままであれば、オーナーがいなくなり、店舗数も減少していく。環境を改善すると、バリューアクトが「お荷物」と考えているイトーヨーカドーと同程度まで、利益率が低下する。どちらにせよ、コンビニは「金のなる木」ではなくなるのだ。

イトーヨーカドーを売却し、コンビニへ注力することを提案したバリューアクト。彼らの目的は、企業価値(彼らにとっては株価)向上策を「提案」し、株価を上げ、売却益を得ることだ。

バリューアクトのウェブサイトのトップページには、

「We invest for the long term」(私たちは長期的に投資します)

とある。彼らのいう「長期」とはどれくらいの期間なのだろうか。

【参考】
セブン&アイ 決算資料
コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書
本稿の「費用」解説は主に、経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」オーナーヒアリングを参考にしている

【注釈】
※1-1 有価証券報告書 2021年3月1日-2022年2月28日
※1-2 セブン&アイ「7andiHD_Domestic_Convenience_Store_Operations」より
※1-3 コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書
※1-4 ロイヤリティ÷売上 ロイヤリティ率とは異なる
※1-5伊藤忠商事 2023年3月24日時点
※2-1 東京都最低賃金は10月1日から時間額1,072円になります|東京労働局
※2-2 経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」オーナーヒアリング
※3-1 コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査報告書
※「金の生る木」プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント 事業拡大撤退の判断に用いるフレームワークの用語。事業を、“花形”、“金の生る木”、“問題児”、“負け犬”に分類し、経営資源の投入配分を検討する手法