日本の大統領制は絶対”否”なのか?:世界に後れ取る政治と統治手法

世の中の複雑さは今世紀に入ってから加速度を増した感があります。理由の一つはインターネットの普及で情報の拡散が早まり、様々な問題が浮き彫りになりやすくなったことで政府が守勢に入ることが増えたからです。国民の不満を与野党が吸い上げ、それを国会などで延々とやり取りするのです。

安倍政権時代後期から菅政権、岸田政権を通じてこの不毛に近いやり取りでどれぐらいの時間を費やしてきたでしょうか?

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一方、時間は止まることがありません。世界では戦争が起き、不和が起き、民主主義対権威主義の対立軸が鮮明になってきています。更には最近、グローバルサウスと称する新たな括り、つまり地理的に地球の南側に多くある途上国や新興国の影響力が北半球の先進国との対比関係として焦点が当たります。

経済はどうでしょうか?インフレ対策、少子化による労働力人口の減少、世界における日本の経済的地位の相対的低下、国内経済の成長維持の行方、産業構造の変化、働き方改革に女性の社会進出の促進…山積です。

社会問題も多いでしょう。超高齢化社会を迎えた日本の未来、社会保障費の増大の対応、最近やけに目立つ若者の各種犯罪や軽はずみな反社会的行動など挙げだしたらキリがありません。

これに対して政府や内閣、そして総理大臣が対応できる範囲はどれぐらいあるのでしょうか?無駄な役人は増やさないという姿勢の日本ですが、ふたを開けてみれば役人の数はOECDで最低の比率である雇用者全体の1/17しかいません。多くの日本人は何か問題が起きれば役人のせいにし、政府の責任を追及し、総理大臣を矢面に立たせます。が、世界比較でも圧倒的に「小さな政府」である日本で国民の突き上げに十分な対応は困難でしょう。

ところで企業は会長、社長制度を取り、更に取締役会とその議長と役割を分離、管理する方向にあります。更には委員会制度を導入している企業も増えています。なぜでしょうか?企業統治ですら社長一人ではできないのです。比較は悪いですが、私も社長業を20年以上やっていますが、最近は実務をやる時間がほとんどありません。今日こそは、と思い、会社に行くと概ね全然違う業務に追われます。先日も電話とZoomのやりとりだけで4時間は費やしています。社内会議が存在しない私の会社ですらそんな具合なのです。そうなると結局土日の邪魔されないときに仕事をすることになるわけで精神衛生的にも良くありません。

お隣の中国の仕組みを見ると統治体制の層が厚いと思います。国家主席と首相、更に重責の最高指導部…と重層になっています。最近話題になっている中国の外交手腕は習近平氏が直接的にやっているわけではなく、王毅氏の責任下で進めており、最後の華を習氏が飾る、という仕組みです。しっかりした分業体制です。フランスや韓国は大統領制なので大統領が外交などをやり、首相が国内問題をやります。アメリカに首相はいませんが、政府部門の役割分担とその責任所在は明白で大きな権限を持っています。それにアメリカの大統領はアメリカ議会には特別な時を除き、来ることはありません。

が、日本の場合、先日のG20外相会議に出席できなかった外務大臣のケースのように国会が神聖化されています。首相も国会に出席し、外遊をこなし、各種会議に出席し、国内外の来賓と接し、大きなイベントには出席します。また、首相の専権事項とか首相の判断に委ねることが多くなっています。これ、一人でやらせること自体がもはや無謀だと思うのです。

これに対して異論をはさもうにも制度的に日本は議院内閣制故に変えられない、これで思考が止まってしまっているのです。10年後に社会が更にどれだけ複雑さを増したとしても同じ理由で改革の検討することすらしないでしょう。

その硬直性が日本の立場をどんどん弱くしていると考えています。

私はあるNPOの会長をしています。制度的には首相と同じです。ですが、私は就任当時からある宣言をしています。それは私は組織の大枠や外部との関係を主体に担当するので実質的に無任所だった副会長を内政の仕切り役にしたのです。組織構成は変わっていません。が、これで運営は大きく改善したことは事実です。つまり企業で言う会長と社長とかCEOとCOOの役割分担のようなものです。

日本の失われた30年を語る際、経済的な低迷に焦点が当たります。ですが、社会の変化に十分対応できていない政治体制も重要な要因があったのではないかと思うのです。バブル崩壊後の日本を語るにおいて世界に後れを取る日本の政治と統治手法が一つも改革されていないに焦点が当たることはあまりありません。

なぜでしょうか?政治家は当選した瞬間に保守的思想になり、自分の地位にしがみつくからでしょう。政治の内部からの改革などまったく期待できないのです。そういう意味で国民が直接選ぶ大統領制は制度的あるいは考え方としては一つの切り口になりえます。日本には天皇制度があるので大統領制度が取れないというならば名称は何でもよいのです。内閣を監視し、議会運営に直言し国民の声を反映できる制度改革は考慮すべきではないかと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月4日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。