カタルーニャ州政府は東京に所在する「カタルーニャ大使館」に大使を任命

カタルーニャ大使館の再開

スペインからの独立を目指すカタルーニャ州政府は外国に大使館と商務部の設置を再開している。2017年10月に独立宣言をした後、スペイン政府から州政府の機能が2018年6月まで停止された。その後、州議会選挙のあと州政府が再開されて現在まで18ヶ国に大使館を設置し40か所に商務部を設けている。

州政府が今回派遣した日本大使の年俸は9万2000ユーロ(1100万円)に加え、日本の物価高に応えて特別手当も用意されているという(2月2日付「ボスポプリ」から引用)。

州政府にとって大使館の開設が重要だと考える理由の根底にあるのは、独立を目指すカタルーニャの存在を外国でよりよく知ってもらうためである。大使館がその広報役を演じることになっている。

勿論、自治州が外国に大使館を設けるというのは違法である。しかし、カタルーニャ州政府はこれまでそれを無視して来た。

カタルーニャ州政府は来年の外務関係の予算として8.7%の上昇を見込んで9720万ユーロ(116億6000万円)の予算を予定しているという。

カタルーニャ州は財政赤字が最も顕著な自治州

財政赤字がスペインの自治州の中で最も顕著なカタルーニャ州で、しかも徴税の数が最も多い自治州が更に独立の為の大使館を設けるということは独立支持者以外は誰も理解できない。

カタルーニャ州政府の財政は赤字である。スペインの自治州で課税の種類が一番多いのはカタルーニャ州で、15種類ある。例えば、2019年から2021年の間に商業施設でカタラン語が使用されていないということで罰金が科せられ、その徴収額は24万3848ユーロ(2926万円)にまでのぼったという。(3月1日付「ABC」から引用)。例えば、レストランのメニューには必ずカタラン語が記載されていることが義務である。それと併記してスペイン語や英語の記載は自由である。

目立ってこの罰金の対象になったのが飲食業や小売業である。

カタルーニャに次いで課税が多い州はむムルシア州とアンダルシア州で、それでも課税は6種類だけである。カタルーニャは課税の種類は断トツに多いということになる。それも外国の企業がカタルーニャへの進出を避ける要因になっている。

しかし、カタルーニャの独立については現状ではもう誰もが不可能であるというのは理解している。しかし、今も独立支持派はあらゆる手段を使って独立の為の活動をしている。独立への歩みを始めた2012年頃は人口760万人のカタルーニャは規模として似ているデンマークのような国家を目指すとしていた。

また、この独立運動によって齎されたカタルーニャの現状を色々な方面から分析している549ページの著書「ECONOMÍA DEL SEPARATISMO CATALÁN」が市販されている。著者はフェラン・ブルネット氏でバルセロナ自治大学の教授である。因みに、ブルネットという苗字は典型的なカタルーニャの苗字のひとつである。

筆者はそこから読者の為に参考になる内容を一部以下に披露することにする。それに少し筆者の意見も加えた。

  1. ヨーロッパでカタルーニャの競争力は2010年に世界ランキング103位であったのが、2019年には161位まで落ちた。
  2. カタルーニャ独自の課税には15種類あり、スペインで最も課税の多い州になっている。州政府の強度の財政赤字が理由である。
  3. 2010年から2019年の間でマドリード州が受けた外国からの投資はカタルーニャ州の同期間と比較して4倍の多さであった。例年だとカタルーニャがいつもマドリードを上回っていた。2012年から2018年まで外国からのカタルーニャが受けた投資はスペイン全体の17.3%であった。それが独立宣言をした翌年の2018年には僅か5.5%に留まった。
  4. EUの一人当たりの所得を100とすると、カタルーニャは107、マドリードは124となっている。また、マドリード州のGDPは2018年にカタルーニャを追い抜いて、国全体の19.1%を占めるようになった。一方のカタルーニャは18.5%。独立宣言をする前年までカタルーニャがマドリードをGDPで微少ではあるが常に上回っていた。
  5. 2000年のカタルーニャ州において生産業の占める割合は22.6%であったのが、2019年には14.6%と急激な減少となった。カタルーニャの企業が本社を州外に移転させ、同時に生産体制のウェートを州外に移したのが要因としてある。
    カタルーニャが独立した暁にはEU加盟国から外されてEU加盟国への輸出にも関税の適用が回避できなくなるからである。
  6. バルセロナ市では市民の60%がスペイン語が日常の会話として使用されている。その一方で標識などは僅か16%がスペイン語で書かれているだけである。またカタルーニャ州全域だと94%がカタラン語だけの表示になっている。
    州政府の公式書面からスペイン語は排除されている。カタラン語だけが公用語として州関係の書類では採用されている。カタルーニャで公務員になるためにはカタラン語の習得が必須である。
    唯一、例外は罰金や税金の徴収の場合で、その通知書類にはスペイン語も記載されている。カタラン語が理解できなかったとかの理由で支払いが実施されない、あるいは法的に訴えられることを避けるためである。
  7. 2017年10月から2019年3月まで独立支持派が独立反対派を僅かに上回っていたが、2019年7月からこの著書の最後の統計2020年7月までは反対派が僅かに上回っている。この差はいつも拮抗しているが、最後の2020年7月は独立反対派50.5%、支持派42.0%とその差8.5%と目立った開きを見せた。
  8. カタルーニャ出身の両親を持つ人の70%が独立支持派であるのに対し、カタルーニャに移民した両親を持つ人の場合は18%が独立支持派である。
  9. カタルーニャの富裕者とエリート層の間で独立派が比較的多い。
  10. 49.6%のカタラン人は独立した時の影響についての情報が僅かしかないと感じている。
  11. 1980年から2021年の間に州選挙は13回実施された。6回が反対派の得票数が支持派を上回り、7回が支持派が反対派を上回った。
    2021年の選挙で州議会議員に当選するのにバルセロナ県では49358票が必要。タラゴナ県だと32301票、ジロナ県では31285票、レリダ県21019票。これが意味するのは独立反対派が多いバルセロナ県では当選するのに常に激戦となる。一方、独立派が多いジロナ県やレリダ県では独立派が議員に選ばれる可能性が高いことを示している。ということから独立派の政権が誕生し易いのである。勿論、独立派の政府はこの矛盾を解決しようとはしない。
  12. 独立運動が盛んになってから、カタルーニャから本社を州外に移転させた企業の中で80%に相当する5682社がマドリード州に移転した。州外に本社を移すことで、仮にカタルーニャが独立しても本社が州外にあるので、依然EUからの支援を受けることができることを狙ったものである。カタルーニャが独立した場合にEUに加盟できない。加盟するにはすべての加盟国の支持が必要であるからである。それにスペインが反対するのは明白である。2017年10月に独立宣言をした後、すぐに本社を州外に移したのはカタルーニャの代表銀行2行であった。1行はアリカンテ市に、もう1行はバレンシア市にそれぞれ本社を移した。
  13. スペイン政府の歳出の50%は各自治州に交付金として支給する金額だ。また各自治州が徴収する税金の15%は自治州の歳入となって、スペイン政府に収める必要がない。
  14. カタルーニャの独立宣言をした2017年を最後に翌年からはカタルーニャから離れる移民が出るようになっている。一方のマドリードは移民が増えている。
  15. 2010年から2019年の間のマドリードのGDP成長率は1.6%に対しカタルーニャは1.0%。
  16. 2020年の統計によると、マドリード州の州民一人当たりの負債が5037ユーロに対し、カタルーニャ州は10407ユーロの負債となっている。一人当たりの所得を見ると、マドリードの州民は34641ユーロに対しカタルーニャ州民は30572ユーロ。
    税金徴収への圧力をEUを100とした場合に、マドリードは87.6、一方のバルセロナは134.5。
  17. カタルーニャはスペインで商業が最も盛んな自治州で、2020年の年間収支は179億ユーロの黒字。マドリードは135億ユーロの赤字。
  18. カタルーニャが独立したいことについて、最も支持が高い国はイタリアで16.5%。最も関心の薄い国はオランダで4.5%。EU加盟国の10人中の6人がカタルーニャの独立運動がスペインのイメージダウンになると評した。
  19. 年金による財政赤字の最も顕著な自治州はカタルーニャで、年間324万ユーロの赤字。一方のマドリードは152万ユーロの黒字。
  20. カタルーニャの独立への動きが活発になってから23%のスペイン人がカタルーニャ産の商品やサービスを受けることを拒否している。
  21. カタルーニャの州知事はスペインの首相よりも多く報酬が多く13万ユーロ。スペインの首相は8万5000ユーロ。州政府の大臣もスペイン政府の大臣よりも報酬は多い。
  22. 仮にカタルーニャが独立するような事態になると、カタルーニャの負債はGDPの178倍に膨れあがることになる。それは同時に新しい通貨を発行しても50%の切り下げを直ぐに余儀なくさせられるのは必至である。

一方、スペインにとってもカタルーニャが独立すれば経済規模は20%削減されることになる。

これらの指摘内容からカタルーニャが独立するのは経済的にスペイン全体にとってもマイナス要因となるということである。また、仮に独立してもデメリットの方がメリットを相当に上回っている。それを承知で現在も独立支持派の州政府は独立への歩みから退く意思はないのである。結局、その被害を受けるのは罪のない州民である。

これから先おそよ10年余りが経過した時点で、州民は独立運動が如何にカタルーニャ経済の進展を阻むことになったか理解されるであろう。