ウィーン国立歌劇場”トリスタンとイゾルデ”。
5時間の果て、目は潤み神経はぼーっと。演出以外、感動〜♪
まずは、歌手がとびっきり。アンドレアス・シャーガーとニーナ・シュテンメ。ワグネリアンだったら、これだけでもうゾクゾクしちゃうでしょう。シャーガーは、パリで数年前にトリスタンとパルジファル聴いてて、極上ヘルデンテノールぶりを満喫してた。ニーナは、去年ここで初体験。感動的なブリュンヒルデを”神々の黄昏”と”ワルキューレ”で堪能し、ファンになった。
タイトルロール歌手がすごく大切なこの作品で、当代きってのワーグナー歌手二人が揃うなんて、なんという幸せ。
2幕後半、二人の圧倒的な歌唱に興奮し、ずるずる引き込まれる。ワーグナーってすごいというか怖いと思うのは、ふたりの逢瀬が明るみ出るシーン。観客も二人と同じように完全にこの世界の深みにはまっていると、いきなり現実に引き戻されてうろたえる。ワーグナーに精神を完全に操られている気がする。ニーナの”イゾルデの死”は、神々しいというかあまりに切なく悲しくそして美しく、涙なしには聴けるはずもなく、あちこちから鼻を啜る音。
オーケストラもブラーヴォ!
昼前に、ブルックナーを俺様ティーレマンの指揮下で大熱演していたホーネックとシュトイデが率いてる。13時前に楽友協会での演奏が終わり、17時から歌劇場でトリスタン。すごい体力。
フルートとクラリネット、昼とトップ変わった?よくなってる気がする。木管が見えない席なのでわからない。弦、なんか人数少し少なくない?トロンボーン、足怪我してる。この時期よくあるスキー怪我?出番少ないので、壁にもたれてずっと寝てる。
オケピット見るの、たのし〜。
フィリップ・ジョルダンの指揮も素晴らしい。渦巻きうねる前奏曲に、海を感じるなぁ。冒頭からテンポよく飛ばす飛ばす。トリスタンたちを乗せた船の船足、速っ。最初から最後まで、端正かつ太さと美しい官能性に包まれたワーグナーの傑作に耳がとろける。
ジョルダンもやめちゃうね。魑魅魍魎うずまく、と昔から言われてきたウィーン国立歌劇場だけど、彼もそれにやられたのかしら。レジーテアター系演出に辟易したから、とニュースになってた。
今夜の演出はカリスト・ビエイト、まさにレジーテアター代表(笑)。去年春の新演出で、物議をかもしていた。悪評高かったので覚悟もしていたけれど、思ったよりは酷くない。ビエイトに期待してないし、数ヶ月前にパリで信じられないほど醜い演出の”サロメ”で免疫ついてたかな・・。
1幕ビショビショ。まあ、海&船が舞台だから。ワーグナー演出における水の登場はよくあるし、これくらいなら、ずぶ濡れシェーガー風邪ひかないでね、髪の毛乾かすの大変ねニーナ、と思うくらい。
2幕は、悪くない。ふたり別々の部屋に閉じ込まれて触れ合えないまま、愛と破壊が興奮の中で紡がれてゆく。情事が明るみに出て我にかえると、愛が破壊されたのが、ずたずたになった部屋の存在でわかる、という感じ(に私は捉えた)
2幕の血だらけ&3幕のはだかんぼうは、ビエイトだしワーグナーだし、もう諦めてる。
ジョルダンや他の指揮者が、今の演出スタイルを嘆くの、わかる。今日だって、水をパシャバシャさせる音、部屋の壁紙を破ったり家具を投げつける時の音などが、ワーグナーの神々しい音楽を邪魔してる。
とはいえ、歌手、オーケストラ、指揮者、作品は完全に好みの、極上オペラ時間。
アントラクト中は、真横のウサギ小屋で焼きソーセージ食べたり、フォワイエブラブラしたり。
今回も、たくさんの感動音楽体験をありがとう、ウィーン♪
編集部より:この記事は加納雪乃さんのブログ「パリのおいしい日々5」2023年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「パリのおいしい日々5」をご覧ください。