アメリカの金融不安は本当に過ぎ去ったのか?:銀行経営の脆弱性とリスク

アメリカの金融不安は本当に過ぎ去ったのか、というお題に対して私の現在の気持ちは「微妙です」としか返せません。何が不安なのか、ご説明します。

まず、アメリカに銀行がいくつあるかご存知でしょうか?2022年6月現在で商業銀行 4178行、貯蓄金融機関 593行、信用組合 4853行の合計9624行あります。いくら日本と人口が3倍弱違うとはいえ、日本の金融機関の数(含む生保、証券、農協)が23年3月末時点で1415であり、いわゆる銀行だけで見ると534行しかないのと比べればとてつもない差なのです。

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うち、商業銀行(Commercial Banks)は貸付が出来ますが、貯蓄銀行の貸し出しは住宅ローン等制約があり、信用組合は個人の協働組織なのでここでは除外します。アメリカで大手と称する資産額1兆ドルを超える銀行はJPモーガンを筆頭に上位6行しかありません。日本では3メガプラスゆうちょ銀行です。つまり、意外にもアメリカの銀行は大手と言っても知れています。7位のUS Bankcorpの資産でりそな銀行と同等の600億ドル規模、20位の銀行で200億ドル、100位になれば19億ドルしか資産がありません。日本ではランクが分かる限り93位の島根銀行ですら40億ドルぐらいは資産があります。つまり、アメリカの銀行は規模に大きな偏りがあり、基本的にはビー玉のような小さな銀行が無数にあってその中のごく一部が番を張っているといってもよいのです。

この4000を超える商業銀行でもずいぶん数は減ったのです。1980年代前半までアメリカの商業銀行は14000行を超えていました。が、その後急減します。理由はあの有名なS&L危機(Saving & Loan Banks Crisis)です。日本の方にはあまりなじみがないと思います。

70年代から80年代前半に年率2桁のインフレを背景に証券会社がMMFという市場連動型の投資信託を開発、発売したところ爆発的にヒットし、中小金融機関から証券会社に個人預金が大移動をしたのです。特に貯蓄銀行(Saving and Loan banks)は壊滅的打撃を受け、1988年には205行の銀行が倒産しました。この衝撃的な貯蓄銀行の崩壊により商業銀行でもクレジットクランチ(貸し渋り)が起き、金融主導のリセッションが起きたのです。日本がバブル経済の最中です。

私はS&L問題が再発するとは言いたくありません。アメリカの金融当局も数々の修羅場を乗り越え、現在に至るので様々なチェック機能は働いています。が、現状は似ています。しかもシリコンバレー銀行の瞬時の破綻は監督当局のチェック漏れも指摘されています。その上、SNSによる想定を超える預金の流出スピードについて金融当局はなすすべもなかったというのが現状です。

今、アメリカでは預金移動が起きています。S&Lが起きた時と同じです。より安全そうな大手銀行に預金が動いているとされます。しかし、ブルームバーグによるとその大手すら預金流出に苦しんでいるというのです。第1四半期の大手3行(JPモーガン、ウェルスファーゴ、バンクオブアメリカ)では1年前に比べ約70兆円の預金流出が起きています。今回も結局、S&L問題が起きたときとまったく同様に証券会社に資金が動き、MMFが買われています。この資金移動がもたらす金融機関の歪みは解決できないのです。

シリコンバレー銀行がなぜ、潰れたか一言で説明せよ、と言われたら私はこう答えます。

「銀行業における預金と貸し出しのバランスを崩した」と。

かつての取り立ては銀行の前に人が並んだので予兆は分かりました。日本では女子高生が銀行を破綻の瀬戸際まで追い込んだ例もあります。それが1973年の愛知県の豊川信用金庫事件で女子高生3人が「信用金庫は銀行強盗に襲われるから危ないよ」と同行に就職が決まっていた同級生にジョークで言ったことがとんでもない流言となり、最終的に当時のお金で20億円が引き出され、大変な騒ぎになったのです。当時は銀行は3時にシャッターが閉まったのです。今はネットバンキングで24時間引き出せるのです。これは怖いのです。

問題は銀行の預金と貸し出しのバランスが崩れた際のリスク対応です。預金に対する資産は貸出先であり、それ以外の余資は運用しています。多くは国債でしょう。仮に引き出しが急増したとします。金利が急上昇している中、銀行が国債を売却すれば大損です。この部分はS&L問題があった時と同じ背景、つまり、高金利下における銀行経営の脆弱性であります。

今、私はREIT(不動産投資信託)に着目しています。特にオフィスビルにウェイトが大きいREITです。理由は銀行の借り換えが困難になる可能性が指摘されているからです。背景はオフィスの空室率です。アメリカの3月のオフィス空室率は16.5%。ヒューストン、アトランタ、オースティンは20%を超えています。カナダも同様の空室率です。理由はオフィスの作り過ぎもありますが、リモートワークが増えたことと業務の効率化で管理部門の従業員が減る方向にある点です。

REITにとってオフィスの空室率が高ければ賃料は入らないし、テナントの契約更改では賃料は下がります。事実アメリカのリスティングの平均賃料は過去1年で1.6%下落の38.28㌦になっています。その上、借り入れ部分は金利高で利払いが増えます。一番怖いのがローンの借り換えの際、中小金融機関が借り換えに難色を示した場合です。これは困ります。ただ、概ね、シンジケートローンで旗振り役の大手銀行が増えた預金ベースに貸し出し維持をして乗り切ると思いますが、そうすれば中小銀行の食い扶持が無くなるということです。

S&L問題は時間をかけてゆっくり進行した問題でした。今回取りざたされる信用収縮もシリコンバレー銀行のように突如起きるというより、予兆なり、兆候は見えると思います。が、FRBが利上げを止めない限り、この問題のリスクは払しょくできないということであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月14日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。