G7では脱炭素と言うけれど:世界に強要をする典型的な欧米のやり方

G7もいろいろなバージョンがありますが、今回、開催されたG7気候 エネルギー 環境相会合ではいつもの如く、石炭と天然ガスがやり玉にあがり、「段階的廃止の加速」となり、「35年に19年比60%減」と盛り込まれました。一方のドイツは国内世論の59%が反対という違和感の中、最後の原発3基を止め、脱原発完了を表明していますが、素直に受け止めにくい感じがします。

このG7、西村経産相と西村環境相のダブル西村で臨みましたが防戦一方だったと報じられています。日本は石炭を諦めるわけにはいかない、だが、欧米は石炭を主力電源とする東アジア諸国は目の敵。特に中国が本命だけど説得するのは難しいのでG7の日本を押し切ることでアジア切り崩しを図るという魂胆でしょうか。つまり、石炭は一方的に絶対にダメ、というのは私から見ると欧米のご都合論を強く感じてしまうのです。

G7気候 エネルギー 環境相会合 NHKより

石炭については日本がアンモニア混焼案を提示しても全く受け入れる余地がないのは政治的判断だとみています。つまり、技術云々ではないのです。同様にEVの普及率が日本は欧米に比して低い、だから数値目標を取り入れよと迫られました。これもご承知の通り、EV化が進んだのは欧米の自己都合です。フォルクスワーゲンのディーゼルの排ガス不正がきっかけでした。それまでは欧州はディーゼル万歳だったのです。数十年に渡りディーゼルを欧州の顔のようにしてきました。それがほんのちょっとしたきっかけで180度転換し、それを世界に強要をするのが典型的な欧米のやり方です。

しかしこの社会的動きに無理があるというのはこの4-5年の社会の動きを見ても明らかで政治的目標を達成するために見えない犠牲を意図的に隠し、また、日本のように既存の電源を工夫し、効率的で環境に優しく賄おうという努力と技術に聞く耳すら持たないわけです。

では例えばアメリカはどうするのでしょうか?アメリカは原発を少しずつ増やす方向にありますが、その建設費が膨大になり過ぎてちっとも工事が進まなくなっています。つまりフィージブルではないのです。それでもアメリカには地下に資源がたんまりあるので痛くもかゆくもないのです。一方のフランスは原発の大増産をすることを数年前から明言しており、フランスこそ欧州の電力源になるつもりです。これは脱ロシアの点からも支援されているわけですが、原発が支持されているよりも政治的にロシアとの接点を切りたいという今の欧州首脳の意図ではないでしょうか?

難しいとは思いますが、仮にロシアが更生し良い国になったら、欧州は手のひらを反すようにロシアからまたガスの供給を受けたいというでしょう。社会の動静などそのような背景で動くものであり、日本がガチの正攻法で攻めてもまず落ちないが現実です。

ところで韓国は安い電気代を基に輸出産業を伸ばすというのが国策でありました。韓国の電力会社は韓国電力公社という半官半民の上場会社が一つあるだけです。電気代の値上げは政府の厳しい審査があり、長年電気代を低廉に抑え、輸出産業を後押しするのが方針でした。ただ、昨今のエネルギー価格の上昇で昨年は3度値上げし、赤字抑制に努めたものの22年度決算はなんと3兆4000億円相当の赤字となりました。これは過去最悪の赤字で、今までの最大の赤字決算の5倍にもなっています。

日本では現在、物価高克服としての総合経済対策で電気、ガス料金の補助が1月分使用料から反映されています。総予算は3兆円越えです。確かにこの補助金は助かります。ただ、ガソリン代補助を含め、政府が国家を丸抱えできるほどの財源という点で政治的判断以上に振れる旗があるわけで裕福な証だろうと思います。韓国はこの規模の赤字は耐えられないので値上げを続ければ産業界へのインパクトは大きくなるでしょう。

こういったケースは脱炭素を推し進める上で出てきている「副作用」「派生的問題」であり、G7の構成国がどこまでの痛みを可とするのか、その駆け引きかと思います。ではお前は解決策として原子力発電所を作ればよいのか、と聞かれればこれも微妙なのです。アメリカでも原発が工期とコストを天秤にかけると全く間尺に合わなくなっていることを考えれば日本に於ける原発は既存の再稼働は出来ても新設はよほどのコスト意識と安全性と原発処理方法を確立しなければ現実的ではないと考えています。

脱炭素の解決方法はいろいろあると思いますが、個人的には日本でいうエネファー当地でいうHydergen Powerの開発が今後急速に進展するとみています。エネファームはガスから水素を取り出して空気中の酸素と反応させて発電する仕組みですが、日本で今一つ普及しない一つの理由は高価である点かもしれません。電気自動車の1/5ぐらいの価格で買えるのですからこちらの普及と改良を進めるのは一つの社会的意義だと思います。当地カナダのBC州でもかなり積極的な取り組みをしており、ラジオのコマーシャルでも時折その宣伝が流れています。

要は切り口を変えるというのもアリだと考えています。脱炭素は重要な流れです。但し、そのスピード感に対してその犠牲分を代替するアイディアを出さないG7の議論は単なる力自慢大会でしかないと思います。もっと知恵を出し、バランス感覚ある環境保全を進めて欲しいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月18日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。