天皇陛下の『留学記』から分かる英国留学生活

天皇陛下には、『テムズとともに──英国の二年間』(学習院教養新書)という著書がある。長らく絶版になっていて、中古市場では2万円くらいになっているのだが、まもなく再刊されるようだ。

私の新刊である『英国王室と日本人:華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館・篠塚隆氏と共著)では、この陛下の留学記も参考にしつつ、陛下の英国留学について紹介している。

以下はそのエッセンスである。

今上陛下が英国のオックスフォード大学に留学されたのは、1983年から1985年にかけてであった。準備は早くから行われ、私も他の欧州留学経験者何人かとともに、東宮御所で留学報告というかたちで、上皇陛下と天皇陛下にお会いしたことがある。

私は欧州各国の文化や制度の違いなどをご説明し、英国だけでなく欧州各国を広く訪れられることをお勧めし、陛下からは音楽事情について質問があったので、ワグナーについて上皇陛下もいっしょにやりとりをしたが、その内容は上記の新刊で紹介した。

エリザベス女王からは、到着二日後にティータイムに招待され、女王が自ら入れられた紅茶をごちそうになったが、このときアンドルー王子やエドワード王子も同席し、学生生活などについてはなした。

ご執務になる天皇陛下 宮内庁HPより

スコットランドのバルモラル城(女王が亡くなった場所)に三日間滞在して、女王をはじめ、フィリップ殿下、チャールズ皇太子ご一家らとバーベキューやサケ釣りを楽しまれた。また、チャールズ皇太子・ダイアナ妃に誘われてコベントガーデン歌劇場でムソルグスキーの「ボリス・ゴドノフ」をご覧になったこともあるそうだ。

ただ、他国の王族とも含めて、食事や遊びに誘われたとか、お世話になったといったものが中心で、どういうアドバイスを受けてその後役立っていると行ったことは、陛下ご本人も周囲の人もあまり発信されておらず、そのあたりは、昭和天皇の洋行のときなどについてのほうが、よほど、情報がある。どうも、皇室が昔より閉鎖的になっているともいえ、再考した方がいい気もする。

オックスフォード大学では、カレッジといわれる寄宿学校のようなものに属して、学内のあちこちでの講義も受けるが、カレッジのなかで生活し、社交生活をし、担任から勉学や生活の指導を受けたりされた。

陛下が学ばれたマートン・カレッジは、こじんまりしたアットホームで警備もしやすいカレッジであり、食事がもっとも「まし」なことでも知られる。卒業生があまりにも悲惨な食事の苦しみから後輩を救うために基金を寄付してくれたお陰である。

陛下の留学中には、秋篠宮皇嗣殿下や黒田清子さんも訪ねてこられ、中華料理店では秋篠宮殿下が中国語で注文されていたなどというエピソードもある。

また、陛下は車の免許は持っておられなかったので、ドライブは運転手のいる車で楽しまれたとか、ディスコに一度だけ行かれたこと、ゴルフは数回プレーされたといったことも書かれている。