トランプ起訴後支持率アップという現象に垣間見えるアメリカが抱える問題の根深さ

田原総一朗です。

3月30日、トランプ前アメリカ大統領が、ニューヨーク州の大陪審に起訴された。2016年の大統領選挙前に、不倫関係にあった女性に口止め料を支払い、その事実を隠すため不正な処理をしたとして、34の罪に問われているのだ。

トランプ氏は無実を主張しているが、大統領経験者が起訴されるという前代未聞の出来事に世界中が驚いた。しかも女性スキャンダルがらみである。

ところが、その後さらに驚かされた。起訴されたことで、なんとトランプ氏の支持率が上がったのである。「トランプ起訴は民主党の弾圧だ」という声まで出ている。いったいなぜなのか。

2016年、トランプ氏が大統領選に立候補し、「アメリカ・ファースト」を掲げた。ひとことでいえば、「他国の面倒は見ない、アメリカさえよければいい」という主義だ。

グローバリゼーションとともに、人件費の高いアメリカでは、多くの企業が製造拠点をアジアや中国などに移し、アメリカ国内の失業者が急増した。その象徴がアメリカ中西部の「ラスト・ベルト」だ。「ラスト(rust)」とは「錆」という意味。

多くの労働者が不満を持っていた。そこに「アメリカさえよければいい」という、「反グローバリズム」を掲げるトランプが現れた。「強く豊かだったアメリカをもう一度」、そんな人々の感情を掬い取ったトランプが、大統領に就任する。

そして、今。アメリカは、ロシアと戦うウクライナに、莫大な援助をしている。「またもアメリカが世界のために犠牲になっている」と、考えるアメリカ国民は多い。

第二次世界大戦後、アメリカは戦地となった欧州や、アジア復興のために力を尽くした。冷戦の時代には、民主主義国家を守るために、多くの国を援助してきた。

そしてまた「ウクライナ援助」。生活の苦しいアメリカ国民にすれば、「世界の面倒を見ている場合ではなく、自国民を大事にしてくれ」となるわけだ。

そんな不満を持つ人たちが、今回の起訴を「民主党によるトランプ弾圧」と捉え、支持率アップにつながったのだろう。この一見すると不思議な現象に、アメリカが抱える問題の根深さを感じる。次の米大統領選挙は、2024年だ。


編集部より:この記事は「田原総一朗 公式ブログ」2023年4月14日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。