学研が、東南アジア市場進出を本格化させている。
学研、ベトナム教育大手と資本提携、東南アジアに本格展開
学研、ベトナム教育大手と資本提携、東南アジアに本格展開:朝日新聞デジタル
学習塾などを運営する学研ホールディングス(HD)は11日、ベトナムの教育・出版大手DTPエデュケーションソリューションズと資本業務提携を結んだと発表した。日本国内は少子化で競争環境が厳しさを増すなか…
ベトナム教育大手と提携し、学研が持つ豊富なコンテンツを、ローカライズ展開するという。
「学研のコンテンツ」と聞いて、思い出すのは「科学と学習」そしてその「付録」。かつて、夢中になった「太陽熱湯わかし器」「けんび鏡」「人体骨格モデル」など。これらが、東南アジアの子どもたちにまで広がるかも? と思うとなんとも喜ばしい。
一方、国内では、2010年以降休刊となっていた「科学」が、昨年(2022年)7月に復刊されている。第1号の付録は、私たちの記憶にあるものとは、別次元の代物だ。
学研プレスリリースより
復刊した「科学」
「水素エネルギーロケット」
これが復刊第1号の付録…いや、もはや付録ではない。立派な実験キットである。昨今、話題になることが多い水素燃料がテーマだ。水を電気分解し水素を作り出し、それを爆発させてロケットを飛ばす。これらすべてが、自分の部屋でできる。心躍るではないか。
理科の時間に行った、水の電気分解をご記憶の方も多いだろう。電源装置のコードを電気分解装置に繋ぎ、分解した水素を燃やす。いかにも実験的だった。
だが、この実験キットは違う。
発電は手動。水素はエネルギーに利用。実践的なのだ。「水素を爆発させて飛ばす」。この原理にときめいて、子どもも大人も、のめり込む。
発電機のハンドルを回す。回す。回す。水中の電極に気泡が付き始める。ロケット内の水位が下がっていく。水素をためて…ためて…満タンのラインまであと少し……よし点火!「ポン」。一瞬、小さな炎を見せ、ロケットが飛んでいく。
学研プレスリリースより
発売直後、SNSには親子で実験する動画が、数多く投稿された。
「大事なのはその『体験』」
アエラドット(AERA dot.)の取材に、「学研の科学」編集長の吉野敏弘氏は、こう答える。「知識や情報は後からついてくる。子どもは“好き”を見つけたら勝手に突き進んでいく」。
学研が、このような考えで学習素材を作り始めたのは、1963年(=昭和38年)からだ。
「科学もの」は売れない
「科学もの」は売れない。当時の出版界のジンクスどおり、「科学」の前身誌「小学生のたのしい科学」の売れ行きは、芳しくなかった。
さまざまな施策を打つ。補助教材から読む気になる「雑誌」への転換。上級・中級・初級の3誌体制から、小学1年生から6年生までカバーする6誌体制への拡大。だが、売上は増えない。
当時、「科学」の制作を指揮していた中川浩氏は考えた。自分は、なぜ科学に興味を持ったのか。幼いころ虫取りに夢中になったこと。中学生のころ理科実験の炎色反応に驚いたことを思いだす。
「本だけではダメだ」
辿り着いたのは、出版社とは思えない結論だった。
「自然科学の面白さ・不思議さ・感動を伝えるには実験や観察が欠かせない」
「実験装置・観察道具・材料を子どもたちに届けることはできないか」
これが、学研の「付録」のはじまりだ。
本物に飛びつく子どもたち
天秤、顕微鏡、温度計。「付録」の製造コストを減らすため「駄菓子屋」のおもちゃメーカーと組む。かさばる「付録」を運ぶため、当時常識だった国鉄(現JR)から、トラック輸送へ切り替える。なんとか、新学期の発売にこぎつけた。
組み立てに失敗しやすく壊れやすい「紙の付録」ではなく、プラスチックやガラスでできた「本物の実験器具」が付いた科学誌に、子どもたちは飛びついた。代理店から追加注文が相次ぎ、発行部数は、3ヶ月後に2倍、5ヶ月後には3倍に急増。1979年には、「科学と学習」の合計発行部数は670万部を記録し、ピークを迎えた。
今でも、学研の社長室には、1960年代の「6年の科学」の奥付(※)文章が貼られている。
※奥付:本の巻末に設けられる書誌に関する事項が記述されている部分
「科学的な物の見方、考え方のできる広い知しきとゆたかなちえをもった人、あなたがそういう人になってくださることを目標に」
大きく進む海外展開
いま、学研のコンテンツが海外の子どもたちに広がろうとしている。
ここ1年半、学研の海外展開は大きく進んだ。
2021年11月には、ベトナム最大級の習い事・教育情報サイト運営企業「KiddiHub」と業務提携。翌22年4月には、学研グループ会社「アイ・シー・ネット株式会社」が、同社と資本提携に踏み切った。
冒頭の発表は、ベトナムにおける資本提携2社目にあたる。提携する「DTP Education Solutions社」は、ベトナム・東南アジア地域の教育企業のリーディングカンパニーと言われる。ベトナムの英語教科書に占めるシェアは約30%。これは国営企業に次ぐ高シェアだ。この、DTP社の学校・書店などの販路を活用し、学研コンテンツの出版・販売を狙う。まずはベトナム。そして東南アジアへ。
日本で育ったコンテンツは海外の子どもに受け入れられるだろうか。
【参考】
学研グループウェブサイト
12年ぶり刊行「学研の科学」”体験”を身近に 子どもだけでなく科学が注目されるワケ〈AERA〉 | AERA dot. (アエラドット)
「逆風に向かう社員になれ」
著者/宮原博昭 発行所/株式会社学研プラス