バカが群れるのか?群れるからバカになるのか?

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

「孤高の天才」とか「烏合の衆」「集合愚」といった言葉がある。この言葉には「優秀な人ほど一人で行動し、愚者ほどベタベタ四六時中群れるという」イメージがあるのではないだろうか。

もちろん、個別の例外を取り上げると何も話ができないので、今回はこの仮説を前提に全体論的に考えたい。その場合、ある一つの疑問が生じる。それは「愚者が群れるのか?それとも群れるから愚者になるのか?」というものである。

本稿は特定の誰かをバカにするのではなく、社会科学への探究の意図を持って書かれた。

AzmanL/iStock

幸福のサバンナ理論とは?

主題の理解をするために知っておくべき理論がある。それは幸福のサバンナ理論(Savannah Hypothesis)だ。ものすごく簡単にいえば知能が高い人ほど孤独になりやすいという話だ。一部においてこの理論の正当性を疑問視する声もあるものの、下記の通りざっくりこの理論を解説したい。

サバンナ理論によると、知能の高い人ほど自分自身の特性や価値観を客観的、自己実現欲求を冷静に理解しており、自己完結的に生きる傾向がある。そのため、自分が持っている時間という資源を学習や研究など一人で集中する活動に投じるため、結果として孤独の状態を獲得するというものだ。(もちろん、前提としてこの主張は多様性を無視して一般化しすぎており、必ずしもすべての知的な人が孤独を好むわけでもないのは言うまでもない。)

しかしながら、知能が高い人の思考や探究を理解や共感を得られる機会は必然的に少なくなる事実は否定できず、これも孤独の獲得を促進する要素になると思っている。たとえば世界トップクラスの数学者は自分の理論や考え方を理解してもらえる機会は極端に少ないだろう。

以上を踏まえると昨今、孤独な人が増えたとされるがそのすべてに悲壮感漂うものではなく、一部において自ら孤独な状態を能動的に獲得する人種も存在しており、その中には比較的知能が高い人達も存在するといえるのではないだろうか。

優秀な個人も群れるとバカに?

ここからはあくまで筆者の狭い個人的体験談に基づく肌感覚の話でしかないが、学校や企業などで個別に見れば大変優秀な人材でも群れることで驚くほど愚かな失敗をしてしまうという事例は数多く見てきたと思っている。もちろん必ずそうなるなど暴論は言わない。だが、完全に否定することも難しいはずだ。その理由に対して次の通り複数の仮説を立ててみた。

1つ目は集団のレベルに落とすということだ。通常、集合する理由は個々人の能力を合わせることでシナジー効果を得るためだ。簡単に言えば企業が人を集めて大きな仕事をするのは、1+1=5とか6にするためである。ところが、実際にやってみるとうまく歯車が噛み合わない状況が起きうる。

本来は一人で3とか4くらいの優秀な能力を持っている個人でも、集団に身を置くと全体に合わせるために1とか2にレベルを落とさないと、うまく歯車が噛み合わない状況はよくある。それだけだとまだマシな方で、集団の向かう方向が間違っていたら悲劇になる。集合の調和を乱さないことが第一義的になり、リーダーの示す先が間違えてしまうと集合知のつもりが、集合愚になってしまうのだ。

さらに責任が希薄化する問題もある。集団で仕事をすると責任の所在が不明瞭なタスクが生まれがちだ。「自分ではない誰かがやるだろう」となると、その放置された仕事が問題の原因となり全体の足を引っ張るということが起きる。一人で仕事をしている状況なら、絶対に対処するはずの仕事も集団だと放置につながることもある。さらに悪いことにそれに経営者の悪意が込められた場合、時折メディアが取り上げるように企業の不祥事から謝罪会見になる。集団に身を置くと声を上げることができなくなるのだ。

最後に慢心が生まれるという問題だ。集団に身を置くと大きな母体に安心感を覚えてしまい、自分という個人レベルで見れば何一つえらくなっていない、スキルも知識もアップデートされていないのに企業業績がよければ慢心してしまう。

業績がいい間は問題ないが、タイタニック号のようにでかい母体もあっさり沈む現代において、この慢心が命取りになる。

会社員ならスキルも知識も磨かれず、労働市場に放流されると次の転職先がなかなか見つからないという話は本当によく聞く。実際、筆者が勤務していた会社ではそういうベテラン社員はたくさんいた。「うちは大きいから大丈夫」と。希望退職募集が始まった途端に、いきなり社内に緊張感が張り詰め余裕の表情を浮かべていた人達も一瞬でこわばった。

個の時代、と呼ばれるようになって久しい。能力の高い人は起業して経営者になったりフリーランスになる時代だ。最も理想的なのは賢者が集合知を実現させることだ。だがこれは活字にするのは簡単でも、それを実現させるのは大変難しいことは数多くの事例が証明している。

野球でもサッカーでもビジネスでも、オールスターのようなエースばかりを集めたチームが必ずしも一番強いとは限らない。重要なのは自分自身の特性を理解し、ソロプレーヤー、チームワークのどちらが能力を発揮できるかを考え、能力を発揮できるフィールドを選ぶことではないだろうか。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。