日本共産党は中国に対してこそ「大軍拡反対」を叫べ

共産党の統一地方選敗北と「岸田大軍拡反対」キャンペーン

日本共産党は、長期化するロシアによる国際法違反のウクライナ侵略、中国の大軍拡と力による現状変更、北朝鮮の核ミサイル開発加速による軍事的脅威に対応するため、岸田文雄内閣が行った「安保3文書」に基づく防衛力強化、反撃能力保有、防衛費増額に対し、連日「赤旗」などで「岸田大軍拡反対」の大キャンペーンを展開してきた。

ところが不思議なことに、先の統一地方選挙では、「安保3文書」賛成、防衛力強化賛成、反撃能力保有賛成の日本維新の会が議席を大幅に増やし大躍進したにもかかわらず、選挙中もこれらの岸田内閣の安保政策のすべてに絶対反対し「岸田大軍拡反対」の大宣伝活動をした共産党は議席を大幅に減らし敗北した。

共産党の敗因は、4月28日付け朝日新聞世論調査の結果が示している。同世論調査では政権交代を目指す野党の防衛政策として、現実的政策を望む人が85パーセント、理想的政策を望む人は10パーセントにとどまる。国民の多数はテレビ等でウクライナの惨状を見て、危機感を持ち防衛力の強化が必要と思っている。

共産党の「岸田大軍拡反対」キャンペーンは、この国民の危機意識に著しく背反し、これと大きく乖離しているのである。「理想的政策」とは共産党が唱える「平和外交」のことである。共産党の敗北は当然と言えよう。

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共産党の「岸田大軍拡反対」の理由

共産党の「岸田大軍拡反対」の理由は、「安保3文書」に基づく防衛力強化のための「反撃能力保有」と称する「敵基地攻撃能力保有」は、憲法9条の「専守防衛」を投げ捨て、集団的自衛権に基づき、日本が攻撃されていないにも拘らず、米軍と共同して相手国の軍事基地のみならず、政権中枢部等に対し先制攻撃を仕掛けるものであるから、相手国と全面戦争になり核を含む反撃を受けて日本は焦土になる。「岸田大軍拡」は日本を「戦争国家」にし軍事対軍事の悪循環をもたらし極めて危険であり、軍事対軍事ではなくすべて「平和外交」で解決すべきだ、などというものである。

共産党の「岸田大軍拡反対」キャンペーンの根底には、党綱領で規定した「アメリカ帝国主義」を敵視する「日米安保条約廃棄」「自衛隊違憲解消」による旧日本社会党と同じ「非武装中立」のイデオロギーがある。すなわち、国と国民を守るためのイージス艦などの「ミサイル防衛」を含む防衛力(抑止力)の必要性を一切認めず丸裸の「平和外交」一辺倒である。

しかし、「平和外交」が万能でないことは、ロシアのウクライナ侵略が証明している。「平和外交」が万能でないからこそ、ウクライナ侵略を見て、長年中立政策を堅持してきたフインランドやスウェーデンさえも、やむを得ず集団安全保障のNATO加盟を決断したのである。

共産党の安保も自衛隊も認めない「非武装中立」イデオロギーによる丸裸の「平和外交」一辺倒では、「台湾有事」「尖閣有事」を含め、ひたすら大軍拡に邁進する中国や、北朝鮮、ロシアの侵略を招く危険性が極めて大きい。

国際社会の現実は、米中ロのような超軍事大国でない限り、一国だけで国と国民を守ることは不可能であり、日米同盟やNATOの集団安全保障による防衛体制の構築は、軍事大国ではない日本にとって必要不可欠であり、日米同盟にも反対する共産党の「非武装中立」は、国を亡ぼす恐れがあり論外である。

共産党の「岸田大軍拡反対」理由に対する反論

共産党は「敵基地攻撃能力保有」は憲法9条の「専守防衛」に違反すると主張する。政府見解によれば「専守防衛」とは「相手国から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、保持する防衛力も自衛のための必要最小限に限る」(2022年防衛白書)とされている。

この定義からいえることは、日本は再び戦前のような「侵略戦争」をせず、もっぱら国を守るための「自衛戦争」に徹する、ということである。この定義は日本の国を守ることが最大の目的であり、国を守るための「自衛戦争」の手段方法を述べたものである。そうだとすれば、「専守防衛」は何よりも、現時点において、国を守る目的から合理的に解釈されなければならない。

「専守防衛」をこの観点から解釈すれば、あくまでも現在の国際情勢下において、日本が国を守るために如何なる防衛力の保持とその行使が必要かつ合理的かが極めて重要であり判断材料である。

ところが、共産党は「赤旗」などで、今から50年も前の1972年の田中角栄首相の国会答弁などをあえて持ち出し、敵基地攻撃は憲法9条の専守防衛違反などと主張している(2023年5月1日付け赤旗)。

しかし、50年前の国際情勢と現在の国際情勢は大きく異なるのみならず、長射程極超音速核弾道ミサイルなど、核兵器を含む軍事技術や軍事兵器も著しく進歩しているから、50年前の解釈をそのまま現在にあてはめて金科玉条とし絶対視することは、国を守る観点から著しく合理性を欠き到底許されない国を亡ぼす形式論である。

具体的には、現在は、第二次世界大戦とは異なり、日本に対して、戦車や大砲、艦船の上陸による侵略よりも、核兵器搭載可能な長射程極超音速弾道ミサイルの飽和攻撃などによる「ミサイル防衛」では迎撃困難なミサイル攻撃が極めて危険である。

そのため「ミサイル防衛」による迎撃では国民の命を守れないとすれば、相手国のミサイル発射基地に対する反撃能力の保有が不可欠となる。これは、すべて国連憲章51条の国際法に基づく自衛権の行使として、国と国民を守るための必要不可欠な反撃であるから、前記の解釈からしても「専守防衛」に違反しないことはもちろん、「先制攻撃」にも該当しないことは明らかである。

また、「必要最小限度」は、中国、ロシア、北朝鮮の核兵器を含む強力な軍事力と軍事技術の水準によって決まる相対的概念であるから、これらを抑止する自衛のための長射程ミサイル等の保有が必要最小限度を超える戦力に該当しないことも明らかである。

さらに、共産党は、米国との集団的自衛権行使により、日本が攻撃されないのに米国の戦争に巻き込まれると主張する。しかし、NATO加盟国は自国が攻撃されなくても加盟国の一国でも攻撃されれば全加盟国が、国際法に基づき集団的自衛権を行使するからこそ、NATOの抑止力は強大であり、これまで加盟国が侵略された事例が皆無なのである。

これと同じことが日米同盟でもいえる。日本が、すべて国連憲章51条の国際法に基づく集団的自衛権の行使として、「重要影響事態」等の場合に集団的自衛権を行使し、米軍を援助できるからこそ、日本が侵略された場合には、米軍が、すべて上記国際法に基づき、集団的自衛権を行使し日本を援助できるのである。これによってこそ、日米双方の対中国、対北朝鮮、対ロシアの抑止力が一段と強化されるのである。

さらに、共産党は、「岸田大軍拡」は軍事対軍事の悪循環をもたらし危険であると主張する。しかし、反撃能力を含む日本の防衛力の抜本的強化は対中、対北朝鮮、対ロシアの抑止力強化に極めて有効である。なぜなら、これらの専制独裁国家はいずれも、国際法よりも徹底して力のみを信じ力には従う力の信奉者だからである。また、米欧中の軍拡競争は旧ソ連が崩壊したように、中国の経済的破綻や政権崩壊をもたらす可能性も否定できないのである(米戦略家トマス・リード=「正論」2021年7月号参照)。

日本共産党は中国に対してこそ「大軍拡反対」を叫べ

岸田内閣の反撃能力保有、防衛費増額などの防衛力の抜本的強化は、ロシアのウクライナ侵略、中国の大軍拡による台湾有事、尖閣有事の危険性、北朝鮮の核ミサイル開発加速などによる専制独裁国家の軍事的脅威への対応を最大の原因とするものである。

このような専制独裁国家による軍事的脅威がなければ、岸田内閣は決して今回の政策には着手していなかったことは明らかである。この最大の原因を作ったのは、とりわけ「中華民族の偉大な復興」をスローガンとして大軍拡を進め、台湾、尖閣を狙い、西太平洋の制空権、制海権の獲得を目指す習近平の中国そのものである。

したがって、日本共産党は、日本国の政党として、日本の岸田内閣に対してではなく、防衛力強化の最大の原因を作った大軍拡の中国に対してこそ、徹底的に「大軍拡反対」を叫ぶべきなのである。「赤旗」を見てもそのような主張も動きも一切なく、ひたすら一方的に日本の岸田内閣を非難攻撃するのみである。