ウォーレン・バフェット氏の日本評価は福となるか?

バフェット氏率いるバークシャーハサウェイ社の株主総会が開催され、バフェット氏が「台湾より日本のほうが良い投資先だ」と述べるなど、日本へのラブコールを示しました。バフェット氏は先般日本を訪問し、5大商社のトップと会談を経て、商社への継続投資と商社以外への更なる投資の拡大の可能性を述べています。

バフェット氏 同氏SNSより

今までバフェット氏が投資した日本の企業は商社を除くとタンガロイという超硬合金の切削工具のメーカーに長く出資しています。タンガロイはもともと東芝のグループ会社で上場していたのですが、2004年にMBOで独立、非上場となります。その後、バークシャー社の支配するIMCインターナショナルが非上場のタンガロイの株式を買い取ったことからバフェット銘柄として著名になったのですが、上場をしていないので一般の方にはなじみもない訳です。業績は小粒ながら利益の塊のような会社に成長しています。また福島県いわき市にあることからバフェット氏が震災後日本に初めて訪れたことでも知られています。

さて、バフェット氏の投資観は好きな人は好きだし、ドキドキさせない銘柄ばかりという点では嫌がる人も多いのが事実です。ある意味、地味な会社が多いのですが、むしろ、同社の投資規模が大きすぎるのでそれに耐えうるある程度の規模の企業しか投資対象にならない点は考慮すべきでしょう。

また、一定の配当をしながら需要が確実に維持され、将来成長余地、ないし利益増大が期待できること、企業に降り注ぐ各種リスクがどれだけ少ないのかを加味するスタイルです。例えば今回の株主総会の比較話で出てきたのが台湾のTSMCで既に手持ちの9割を売却したとされます。理由は「地政学的リスク」。

バフェット氏のことですから徹底的な分析をしているはずですが、私の予想はTSMCはいざとなれば中国に逆らえない可能性が高いとみたのだと思います。台湾の経済界は中国に敵対心を持っているところは少なく、シャープを取り込み、アップルの重要な取引先である鴻海精密工業もどう見ても中国に足を向けて寝られません。中国人は権力に弱い、これをわかっている人ならば台湾企業がアメリカになびくことはないのは分かっているはずです。

とすれば欧米とのリンクがより強く、政治的安定感がある日本は一つの選択肢になるのでしょう。ただ、バフェット氏が商社株を買い増すと発表した時もプロの投資家の間では思ったほど盛り上がらなかったのが事実です。私もその一人で商社は様々な「フック」を通じた垂直型ビジネスという特徴があるものの世界に通じる決定的な強みではない点においてそれほど評価が高い訳ではありません。

ここでいう商社の「フック」とはかつては情報でしたが、今では投資や融資など金銭面でのリンクに傾注しているようです。その点では通信会社のようなインフラを資源、食糧、木材などに置き換えたような機能であってバフェット氏好みではあると思います。

とはいえ、バフェット氏の日本評価は日本に明るいニュースとなると思います。「投資の(元)神様」に認められたこと、また先々第3、第4のバフェット銘柄が出てくる期待感を囃すことになるでしょう。日本企業に必要なのは元気の素だと思います。長年、頭を叩かれ、蓋をされ、成長しない神話を続けてきた中でコロナ明けと共にようやく企業の賃金が上がり始め、人々が動き、消費し、前向きの社会になってきたことは十分な元気のエキスと言えましょう。表題の「バフェット氏の日本評価は福となるか」について私はYESだと信じています。

もう一つ、バフェット氏がバークシャー社の投資バランスについて90%がアメリカ企業向けと悪く言えばアメリカ一本足打法にリスクを感じ始めた可能性はあります。つまり、日本の個人投資家がアメリカ株に投資をしようとしている中でバフェット氏は日本株にお宝を探すという訳です。つまり、真逆です。私は日本人のアメリカ株投資について否定はしません。ただ、バフェット氏も私も同じ思いがあるのです。それは北米は投資環境が良くない、であります。

アメリカという国は絶対でしょうか?それを疑い始めたらきりがないと思われるのですが、私は19歳の時からずっと縁があってほぼずっと北米との接点を持ち続けました。つまり42年間の実体験、そして過去学んだアメリカと今のアメリカは明らかに違うということです。となればアメリカが生み続けてきた世界のリーダーとしての価値が今後も継続できるか、その確証は少なくとも私は持ち合わせていません。

だからこそ、アメリカと兄弟のような日本に目を向けた優しいバフェットおじいさんの慧眼ではないか、と思ったりするのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年5月8日の記事より転載させていただきました。