チャールズ国王は“聖霊”を受けたか:21世紀に苦闘する英王室

6日の土曜日は午前中は買い物した後、3時間あまりテレビの前に座って英国のチャールズ国王戴冠式を観ていた。バチカンの復活祭の記念礼拝は通常2時間で終わるが、戴冠式は3時間以上の長丁場となって、さすがに疲れた。BBCは1日中、戴冠式関連のニュースを流していた。その熱心さには敬服する。

チャールズ国王の戴冠式(2023年5月6日、バチカンニュース公式サイトから)

当方はテレビの前に座っていたのだが、バッキンガム宮殿から戴冠式が行われたロンドン中心部のウェストミンスター寺院までの道路沿いには多くの国民が旗をもち、戴冠式の様子を共有しようと前日から待っていた様子が映されていた。あいにく戴冠式の日は快晴ではなく朝から小雨が降っていたが大雨にもならず、戴冠式に大きな影響はなかった。世界から数千人のゲストが集まった。戴冠式を警備する軍関係の警備員の数は4000人以上だったという。

戴冠式は1000年の伝統に基づくもので、70年ぶりという。そのため王室問題専門家は、「戴冠式では全ての関係者が神経質になっていた。経験した者が誰もいないからだ」と評していたのが印象的だった。BBCは80歳を過ぎた女性にインタビューしていた。彼女は、「10歳の時、エリザベス女王の戴冠式が行われたことは聞いていたが、何も憶えていない。チャールズ国王の戴冠式が自分にとって初体験だ」と答えていたから国民の大半にとって戴冠式の様子を見るのは初めてということになる。

当方が戴冠式で最も感動したシーンというか、驚いたのはチャールズ国王が金色の布の天蓋の下で、カンタベリー大司教から奉献された聖油を注がれる場面だ。囲まれた聖所のようなところに、国王は王衣をとり白い衣だけになって入った。外からは見えないように四方を囲まれている。周囲を守って囲んでいる関係者も天幕内の様子を見てはならないから、式が終わるまで首を垂れていなければならない。戴冠式で最も厳粛な場面だ。チャールズ国王はカンタベリー大司教から油を注がれ、聖霊を受けた瞬間、文字通り、英国国教会の首長となったわけだ。

旧約聖書の「サムエル記上」第16章には、最初のイスラエル国王サウル王から「主の霊は離れ」、ダビデに国王が継承される瞬間を記述されている。聖霊を受けない限り、国王になれない。そして聖霊を受けた人物は神の願いにかなった歩みをしなければならない。さもなければ、サウル王のように、聖霊が出ていき、「悪霊が悩ます」というわけだ。

聖霊といっても、多くの人にとって理解できないだろう。不可視であり、どこに存在するといったものではなく、あくまでも天から降臨するものだからだ。それを受けない限り、国王として神によって認知されない。油を注がれ、聖霊の祝福を受ける、このコースが戴冠式のエッセンスというわけだ。その点、米国大統領が議事堂前で宣誓式を経て大統領に就任するのとは異なっている。

キリスト教では神は「父、子、聖霊という三つのペルソナ(位格)をもっておられる」と教える。聖霊はその神の3つのペルソナの一つといえるわけだ。具体的には、聖霊は人に神への信仰を呼び起こす役割があるうえ、「助け手」でもあるから、聖霊を受けた信者が喜びで溢れるということがあるわけだ。

厳密にいえば、「戴冠式前」と「戴冠式後」ではチャールズ国王は異なった存在といえる。母親エリザベス女王が昨年9月8日、96歳で亡くなった後、国王を継承したのだから、時間と経費の無駄遣いの戴冠式を挙行する必要はない、といった批判が英国内でも聞かれたが、繰り返すが、戴冠式で聖霊を受けない限り、チャールズ国王は世俗的な国王になれても、英国国教会の首長とはなれないのだ。

今月28日はペンテコステ(聖霊降臨日)だ。イエスが復活し、40日間、弟子たちを再び集めて福音を述べ伝えた後、昇天。その10日後の日曜日、聖霊が降臨した日を祝う祝祭日だ。迫害を恐れてきた弟子たちは聖霊を受けると異言を語り、命がけの伝道に出かける。まさに、聖霊降臨前と後では弟子達は180度変わったのだ。ペンテコステを期して、「教会は始まった」といわれる所以だ。

例えば、迫害を恐れてイエスを知らないと言い逃れてきたペテロは聖霊を受けた後、逆さ十字架すら恐れない強い信仰者に生まれ変わった、という話が新約聖書に書かれている。多分、ひょっとしたら、このことはチャールズ国王にも当てはまるかもしれない、と考えた。

欧州の王室は英王室も含め、21世紀の新しい時代を生き延びていくために苦闘している。君主制を維持するか、共和制に移行するか、英国でも議論を呼んでいる。

チャールズ国王は戴冠式で聖霊を受けただろうか。国王の今後の歩みをみれば分かるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。