日本はイランになぜ甘いのか(古森 義久)

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顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

日本はなぜかイランに対して異様なほどに寛容である。国際的にはイランはイスラエルの抹殺を一貫して唱える。そのための手段とも思われる核兵器の開発に驀進する。国際テロにも関与する。自国民にはイスラム原理主義の厳しい戒律を課し、女性の社会的活動を認めない。わが日本の拠って立つ立場とはおよそ相反する国家がイランなのである。

ところが日本側では「イランは親日国家だから特別な友好が必要だ」とする声が国民レベルでも、政権与党内でも、強いのだ。その結果、イランの対外的な軍事行動やテロ活動に対して日本はきわめて寛容になる。その日本の対イラン外交に対してアメリカ側の識者から叱責と呼べる非難の声が飛ばされた。

「イランのロシアへの軍事支援を非難しないのはG7諸国でも日本だけだ」

「日本はイランがロシアのウクライナ侵略を直接に軍事支援していることになんの制裁措置もとっていない」

「日本はイランと貿易取引を続けることでロシアのウクライナ侵略を助ける結果となっている」

こんな警告がアメリカの安全保障の権威から発せられた。2023年4月末、広島でのG7会合を目前とした時期だった。

イランはロシア軍がウクライナ攻撃に使う無人機やミサイル類を提供しており、そのイランの軍事関連組織と商取引をする日本はロシアのウクライナ侵略に間接寄与するに等しく、G7の連帯にも反する―というこの指摘は具体的な日本企業の名まであげていた。

この警告はトランプ前政権の国家安全保障担当の大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏により発せられた。ワシントンの保守系政治雑誌「ナショナル・レビュー」の4月下旬号へのボルトン氏の寄稿論文という形をとっていた。ボルトン氏はトランプ前大統領とは意見が衝突して辞任したが、ブッシュ初代、二代両政権で国連大使や国務省高官を務めた外交、戦略の権威とされる。

「ウクライナ支援のために日本は反イランの姿勢をとらねばならない」と題する同論文は、イランがロシアのウクライナ軍事侵攻を支援して無人機やミサイルを供与し、ウクライナの民間人の殺傷に寄与していると、まずイランを厳しく非難していた。

そのうえで同論文はイランのそのロシア軍事支援が明白となった昨年9月以降、G7諸国がつぎつぎとイランへの制裁措置をとったのに日本だけはなにもせず、「東京とテヘランの間では資金と製品が自由に流れ、ウクライナ戦争の継続とイランの有害な行動を激励している」と日本を批判していた。

ボルトン氏は従来は日米同盟の堅持論者で日中関係などでは日本の立場を一貫して支持してきたが、今回は日本がイランに甘いと非難する。ただしイランの核兵器開発では日本も国連制裁に同調してきたことを暗に認めながらも、イランのロシア軍事支援への制裁措置を日本に求めるのだった。

ボルトン論文は具体的には以下の骨子を述べていた。

  • 日本外務省の山田重夫審議官が4月上旬にイラン側にロシアへの兵器供与を止めるよう要請したというが、そんな要請はばかげている。イランは制裁や圧力をかけなければ動かないからだ。
  • 日本の総合商社の双日は2022年、イラン製のポリエチレン樹脂6万4千トンを購入したことに対してアメリカ政府財務省から5百万ドルの懲罰金を課された。この購入はアメリカのイラン石油化学部門への制裁を侵食した。
  • イランの核武装に反対する米欧民間組織の「反イラン核連合」(UANI)は22年にイランが支援する国際テロ組織のヒズボラが日本の通信機器企業のアイコムの製品を使用している証拠を公表した。アイコムはイラン国内に別個の形をとる代理店を保有している。
  • UANIはさらに最近、日本の防衛関連企業のフジクラが米欧からの制裁対象となったイランの組織が加わる市場に関与している証拠を得た。その対象にはイランの革命防衛隊も含まれる。
  • 他の日本企業はイランの軍用無人機に使われる部品やソフトウェアをイラン用無人機を製造する中国企業に売却している。

ボルトン氏は以上のような日本とイランとの商業取引はアメリカにとっては許容できないとして、日本がイランとの貿易関係を全面的に断つことを求めた。同時に同氏はこの日本とイランとの絆が5月の広島でのG7首脳会議でも批判的に提起されるだろうとも述べた。

古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。