ソフトバンクG決算にみるハイテクの行方:孫正義帝国は崩壊の一途か?

ソフトバンクグループの3月決算が発表され、9701億円の赤字となりました。前期が1兆7080億円の赤字でしたので2期連続の巨額赤字に見えます。「見えます」と言うのは投資会社なので期末の評価損益を計上するため、実際には実現損ではないものの手持ちの株価や評価の揺らぎで数字も大きくブレる、と言うだけです。報道ではビジョンファンドが5四半期連続の赤字でその合計額は6兆5千億円にも達するともされ、一般の方が読む印象では「ボロボロ」と言うことになります。ちなみにアメリカのPINK(OTC)市場では本日、ソフトバンクGは1.50%安程度で取引されていました。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義 同社HPより

では孫正義帝国は崩壊の一途を辿っているのでしょうか?個人的には今回で一旦打ち止めになるとみています。

ひと月ちょっと前にこのブログで「ハイテク株はそろそろ打診買いを入れてもいいのでは」と申し上げました。当たっていたかと思います。理由は多くのハイテク株は他業種に先駆けてリストラを敢行、大幅な人員削減を行い、企業が筋肉質になっているのです。そこに持ってきてマイクロソフトのチャットGPTがハイテク業界に新たな旋風を巻き起こし、「生成AI」なる新語が岸田首相が論じるほどになったのです。

更にマイクロソフトの対抗馬であるグーグルが開発する同様の生成AI、「Bard(バード)」がアメリカなどでの公開に続き、5月10日から日本などでの公開も始まってきています。ちなみにBardとは詩人と言う意味で語りかけるようにやり取りできる、と言う意味でしょうか?語りかけると言えばチャットGPTも画面でタイプしなくても音声入力に音声出力も可能です。まるで会話をするような感じでやり取りができるようになります。これはアクセスが圧倒的にしやすくなるほか、IT機器に拒否反応を示す高齢者やITリテラシーの低い方にも非常に使いやすいと思います。

私は個人的には孤独な高齢者の話し相手としての使い方が展開できるとみています。かつてスマートスピーカーが話題になりましたが、その後、一気に下火となりました。やり取りに限界があったからです。あるいはiPhoneのSiriと話していてもこちらが小ばかにされることもあり、完成度の低さを物語っていたのですが、生成AIの出来はそれらの稚拙なレベルをはるかに凌駕しています。

企業や公官庁での限定的な使用も始まっています。つまり、「最新の技術を使わない理由はどこにもない」ということです。これを使うことで今までと仕事のやり方が変わる、質の低下を招くといった弊害を並べていても意味がないという訳です。90年代にワープロが出来てパソコンが出来た際に社会人はそれを習得するのがマストであったように生成AIは今後様々な応用で社会の中に組み込まれていくことは必須です。好む好まざるにかかわらず、それを選択せざるを得ないということです。

そう考えると今回の生成AIはこのところ大ヒットが少なかったハイテク業界にとって救世主のような位置づけになり、急激な盛り上がりが期待できるとみています。

とすればソフトバンクGが傾注するハイテクのスタートアップにとってはファンダメンタルズとしては悪くない環境にあります。ただ問題は金融環境が異様に悪いのです。銀行は貸さない、投資家も疑心暗鬼にあるため、唯我独尊、我が道を進むGAFAMなど資金的余裕があるところが先行して一気に開花していくとみています。一部ハイテク株の上昇はそのあたりの背景があるのです。

ソフトバンクGに関してみれば所有していたフォートレスを今般4000億円規模でアラブの企業に売却する予定など手持ち資金を大きく拡充してきています。既に5兆円規模で更に積み増しし、そのうち6兆、7兆円と増えるのでしょう。「江戸っ子は宵越しの銭は持たぬ」という諺がありますが、ひろが作る現代版諺は「投資家のもつ現金は金を生まぬ」なのです。つまり投資してなんぼなのです。よってさほど遠くない時期に一気呵成に攻め上げるとみています。孫正義氏はいつまでも静かにしていないだろうと思います。

孫氏が有利であるポジションは日本の金利は低いこと、つまり投資したリターンの方がはるかに大きくなりやすい環境にあるのです。もしも日本で金利が4-5%もつけば投資をせず、じっとしている人ばかりになるでしょう。ですが、いまの金利とインフレ率を比べると現金は明らかに負けなのです。皆さんは日々どんどんお金を失っているのです。孫氏も同様です。だから、投資をせざるを得ないのです。

日々株価ボードとにらめっこしている肌感覚ではハイテクが今の相場を引っ張っていきそうだとみており、当面はリーディングセクターになりうる公算があるとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年5月12日の記事より転載させていただきました。