先日、テレビ東京の人気番組「カンブリア宮殿」で取り上げられた会社が大きな話題になりました。
旅行系のサービスを提供する株式会社KabuK Style(カブクスタイル)は、従業員の7割が業務委託契約で一年ごとの更新であると番組内で経営者自ら語ったことから、業務委託なのに従業員と呼ぶのか? このような働かせ方は問題ないのか? と多数の批判を受けました。(2023年4月27日放送)
放送された以上のことは分かりませんので問題の無い形であってほしいとしか言えませんが、近年働き方が多様化しフリーランスとして企業に属さず働く人は急増しています。当然、反対側から見ればフリーランスを活用する企業も増えているわけです。
中には「社員」のように働きながらフリーランスとして扱われ、法的保護から漏れてしまう人がいるなど新たな課題も発生しています。雇用と業務委託の違いを知らないでいると、思わぬトラブルに発展することもあるのです。
そこで雇用の専門家である社労士の立場から、雇用契約と業務委託契約の違い、見わけ方のポイント、会社から業務委託契約への切り替えを打診された場合の留意点について解説したいと思います。
業務委託契約と雇用契約の違い
企業で働く際の契約で最も一般的なものが「雇用契約」です。
雇用契約は企業と雇用契約を結び、企業の指示に従って働きます。雇用契約を結ぶ人を「労働者」、給与を支払う人や企業を「使用者」といいます。
この条件に該当すれば、派遣社員もアルバイトも「労働者」です。
雇用されて働く人には労働基準法や労働契約法といった労働法が適用され、働く代わりに給与をもらう主従関係があります。
一方、業務委託契約は自社で対応できない業務を外部の企業や個人に任せる契約です。業務委託は「使用者」と「労働者」の主従関係ではなく事業者同士の契約です。
通常、業務委託で働く場合は業務に関する細かい指示を受けることはなく自らの裁量で自由に働くことができます。
これらの方はフリーランス・個人事業主などと呼ばれ、(通常は)労働基準法上の「労働者」ではありません。ライターやデザイナーなどが代表的ですが職種は多岐にわたります。
ただ、ここが一番重要なポイントになりますが、フリーランスや個人事業主と呼ばれていても、会社の指揮命令を受けて社員と同じような働き方をしていれば「労働者」として判断される場合もあります。
労働法の適用や社会保険料の負担を免れる目的で企業が業務委託等の名目で仕事をさせている場合は、いわゆる「偽装請負」となり違法です。
業務委託契約は、そのメリット・デメリットを双方できちんと理解し、企業側が適正に運用することで成り立つものなのです。
業務委託契約と雇用契約の違いは?
では、「業務委託契約書」を締結してしまっている人には一切労働法は適用されないのでしょうか?
そうとは言えません。あなたが雇用契約の「労働者」であるか否かは、契約書の形式やタイトルに関わらず実態として「使用従属性」があるかないかで判断されるからです。
あなたと企業の間に主従関係、専門的な言葉を使うと「使用従属性」があると判断されれば「労働者」として労働法が適用されることがあるのです。後述するように、有給休暇や社会保険の加入など労働者の権利は多数あるため、そういった権利があるのに使えないのであれば働く人にとっては極めて不利になります。
そういった形で労働者の権利が無視されることのないように、あくまで実態で判断されることになっているわけです
では、「使用従属性」はどのような場合に認められやすくなるのでしょうか?使用従属性は「使用されている者か」「賃金が支払われている者か」の2つの要素に加え、その他の補助的要素の3つのポイントがあります。
■ 使用されている者か
会社の指揮命令を受けて働いているかどうか?
判断要素は以下の通りです。
・仕事の依頼・業務の指示等に対して受ける/受けないの決定権がない
・仕事のやり方や方法に細かい指示命令がある
・働く場所や働く時間の自由がない
・他人が代わって業務を行うことが許可されていない
■ 賃金が支払われている者か
労働の対償として賃金が支払われているかどうか?
判断要素は以下の通りです。
・欠勤した場合に給料が減らされる。
・残業代が支払われている
・社会保険料が控除されている
・報酬が一般社員と同じ
・報酬が仕事の成果ではなく、時間給や日給によって支払われている
■ その他の要素
その他の補完的要素として以下のものがあります。
・業務遂行に必要な備品が会社負担によって用意されている
・会社から他社の業務への従事を制限されている
・就業規則や福利厚生制度が適用されている
・給与所得として源泉徴収されている
どれも社員として働いている人には当たり前の話ですが、これが外注や業務委託の名目で働いているのに該当するのならどうでしょうか。他の社員と同じ時間に出勤してタイムカードで管理されている、終業時間も決まっている、仕事内容も社員と同じ、先輩や上司(と呼ばれる人)から仕事の指示を受ける……とこれでは社員と判別がつきません。
このような働かせ方は、外注のふりをした社員であるとして偽装請負と判断される可能性がある、という説明になります。
業務のあらゆる場面で「使用従属性」が認められる場合には、仮に契約書に「業務委託契約書」と書かれていても雇用契約と扱われ、使用者としての権利を認めなければ違法となります。
業務委託契約が雇用契約と判断されれば、労働者は労働法によって保護されます。
具体的には、下記のような労働法上の保護を受けることができます。
・雇用保険、健康保険、労災保険、厚生年金保険などの社会保険制度が利用できる
・年次有給休暇を取得することができる
・残業代を請求することができる
・就業規則が適用される
・最低賃金が適用される
自分が結んでいる業務委託契約が実態として雇用契約に当たっていないか改めて確認してみてください。
どのような要素が重視されるかは職種によっても異なりますので、個別具体的な判断については専門家に相談することをお勧めします。
会社から「雇用契約を業務委託契約に変更しないか?」と言われたら
社員やパートとして働いている人が「業務委託契約への切り替え」を提案される場合もあります。
契約切り替えに際して、留意すべきポイントは2つあります。
1つ目は、雇用契約を業務委託契約に切り替えることは、手続き上は退職扱いになるということです。
業務委託になると社員として適用されていた労働法や社会保険が適用されなくなります。法的保護や補償が大きく変わることは社員にとって大きなデメリットになります。
例えば、下記のようなデメリットも発生します。
・仕事で病気や怪我をしても労災保険が使えない
・私傷病で仕事を休んでも傷病手当金などの手当がもらえない
・失業しても失業手当がもらえない
・最低賃金の補償がなくなるため収入が不安定になる
・残業代が支払われなくなる
働き方や仕事の仕方も変わります。会社側はそれらについてきちんと説明するとともに、働く側と合意することが必要になります。
会社側が契約の切り替えを強要することは違法行為ですから、会社側からの業務委託契約への切り替えは断ることができるとを知っておいてください。一方的に契約変更を告げられるようなケースは安易に受け入れず専門家や労働基準監督署などに相談することが大切です。
2つ目は、形式だけの業務委託契約は「偽装請負」の可能性があるということです。労働者であるかどうかは、契約書の形式やタイトルではなく「働き方の実態」で決まると説明した通りです。
社員として働いている人に対し、これまでと同じような働き方をさせているにも関わらず形式だけ業務委託契約に変更することも「偽装請負」、つまりはは違法行為です。
例えば、業務委託契約に切り替えた元社員に今までと同じ仕事を行ってもらう場合でも、会社側は仕事の場所や時間を指定したり、業務の指示を出してはいけません。強制的に仕事をさせることも出来ません。それでは社員と変わらないからです。
まとめ
業務委託契約は、企業にとっては外部の専門性を活用できるメリット、働く側にとっては自由な働き方を実現できるメリットがありますが、運用を間違えば「偽装請負」などの違法行為になってしまう可能性があります。
そうしたトラブルを生まないためにも雇用契約と業務委託契約の違いや判断基準を正しく理解する、そして働く側は自分自身を守る、企業側は法律と労働者を守る必要がある、という説明になります。
正社員として、あるいはフリーランスとして働いている人でも、働き方が変わることはあります。中には社員なのか業務委託なのか曖昧な仕事もあるかもしれません。柔軟性のある働き方は否定されるものではありませんが、トラブルに巻き込まれないように慎重に判断をしていただければと思います。
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桐生 由紀 社会保険労務士
大学卒業後、大手財閥系企業の管理部門業務に従事。第1子出産を機に専業主婦になるが、配偶者の急死により二人の子供を抱えてシングルマザーになる。Authense法律事務所に再就職し、法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引する。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。現在は、弁護士法人でHR部門を統括しつつ、社会保険労務士法人の代表として複数のクライアントを支援している。プライベートでは男子3人の母。
公式サイト https://www.authense.jp/authense-sr/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月15日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。