鳴り止むことのないNHK「反核」狂騒曲

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G7広島サミットが開幕した。前夜の5月18日に放送されたNHK「ニュース7」は案の定、このニュース一色となった。なかで「〝核廃絶へ成果を〞被爆者の願い」と題したコーナーを組み、「6歳で被爆」した高齢女性(田中稔子さん)に、こう語らせた。

核はね、ある意味で戦争をおさめるとか、抑止力になるとか言ってますけど、嘘だとわかりましたね。核も使われるかもしれない。(以下略)

見てのとおり、核抑止力を全否定している。もしNHKが放送法を遵守するなら、米国による拡大抑止(核の傘)の意義を説く論者にもコメントさせるなど、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」(4条)が求められるが、残念ながら、そうした論者の出番はなかった。

さらに、同夜の「ニュースウオッチ9」でも、《広島発〝核廃絶のメッセージ〞》と題したコーナーで、「ICAN(核兵器国際キャンペーン)国際運営委員 川崎哲さん」に、こう語らせた。

戦争が続きですね、核の脅威が広がっているなかで、ここ広島から平和の大切さを訴えるという意義があると思いますし、またG7というのは、核兵器を持っている国と、その傘の下にある国々との集まりなんですね。(以下略)

加えて、大学生らに『広島発〝核廃絶のメッセージ〞』を語らせたのち、再び、川崎を登場させ、なんと「日本」を含む各国の「軍拡」を批判させた。これでも、「政治的に公平であること」(4条)を求めた放送法を遵守していると言えるだろうか。

日本の周辺では、隣国ロシアが核の脅しを続け、北朝鮮や中国が核戦力を増強させている。いまG7で語られるべきは、本当に「核廃絶のメッセージ」なのだろうか(前回投稿参照)。

さらに言えば、この番組が川崎を担ぐのは、これが初めてではない。平成30年(2018年)8月9日放送回でも、当時の有馬キャスターがこう導入した。

核廃絶の機運をどう確かなものにしていくのか。ノーベル平和賞を受賞したICANの中心メンバーに話を聞きました。

登場したのは「国際運営委員 川崎哲さん」に有馬がこう質した。

アメリカの核の傘に守られ、核兵器禁止条約に背を向けてきた日本。私たちに何ができるのか。
日本人一人ひとり、どうこの問題に関わっていくべきか。どう一歩を踏み出したらいいのか。

川崎いわく、

できることはいっぱいある。いっぱいあるんです。一番簡単なことは、スマホで意思表明することだと思うんです。

一笑に付されるはずが、有馬は相槌をうち、うなずくだけ。調子に乗った川崎がこう続けた。

だって、あの〜、ICANがこれだけ広がったのは全部ソーシャルメディアですよ。テレビも新聞も、あまり世界中で取り上げてくれないんですよね。だから自分たちでSNSを使って発信していったんです。動画を拡散して、それに「いいね!」を集めて。だから核兵器廃絶のキャンペーン動画でいいのがあったら、「いいね!」すりゃ、いいんですよ。「いいね!」して、友達に広げればいい。それがまず最初にできることなんですね。

万一そんなことで「核なき世界平和」が実現できるなら、国際政治学も安全保障学も、自衛隊も外務省も不要となろう。本来なら、幼稚な空想論と一笑に付されるはずが、なぜか有馬はうなずき、相槌をうち、「一人ひとりが行動すれば、国を動かすことも不可能ではない」と、ここでも川崎に調子を合わせた。

しかも、NHKはこの発言をテロップで文字化したあげく、「いいね!」の部分だけを、青く(青い文字で)強調。さらに以上のやり取りを切り取り、わざわざ番組公式サイトで公開した。異例の特別扱いに驚く。

詳しくは拙著「ウクライナの教訓」に委ねるが、このように番組は川崎の独壇場と化した。9時22分から38分まで約16分間の時間を費やし延々放送した。最後に当時のキャスターがこう総括した。

桑子:核兵器禁止条約。発効はまだしてはいませんけれども、すでにその核兵器の廃絶という目標に向けて一つ大きな流れは生まれつつあるんですね。

有馬:世界にある核弾頭。推計で1万4千個あまりです。その核を廃絶するというのは途方もないことで無力感のようなものすら感じます。しかし今回、話を聞いて私たち一人ひとりにも、できることがあると、改めて感じました。

ちなみに、この日は長崎への原爆投下に加え、旧ソ連(ロシア)の対日参戦の日でもあったが、NHKは核兵器を保有するロシア(旧ソ連)や中国、北朝鮮ではなく、以上のとおり「核兵器禁止条約に背を向けてきた日本」を批判した。いったい、どういう神経なのか。

いずれにせよ、もう5年近くが過ぎた。もちろん「核兵器の廃絶」は実現していない。だが、きっと有馬の「無力感」は解消されたに違いない。なにしろ「私たち一人ひとりにも、できることがある」のだから…。

NHKの「反核」狂騒曲は、昔も今も、鳴り止むことを知らない。