スラップ訴訟には罰則を科すべきだ:田村淳氏も国生さゆり氏も謝罪する必要などない

ジャーナリスト江川紹子氏はツイッターでしばしばおかしなことを呟く。

違和を強く覚えた。通常の日本語読解力はあるつもりだが、このツイートはどう読んでみても山上被告のテロ行為に功があったかのように評しているとしか受けとれないからだ。

危機管理が専門の日本大学危機管理学部長福田充教授は『テロリズムとメディア報道 ~英米におけるテロ報道に関する制度の考察』と題する自身の論文の中で「プロパガンダのためにメディア報道を利用したいと思うテロリストの思惑と、事件を詳細に報道したいというジャーナリズムの社会的責任が合致して、テロリズムの効果はメディア報道により達成される」と述べている。

現在山上被告の元には安倍元首相暗殺を称賛したりテロ行為の動機に共感したりする手紙が多額の献金とともに寄せられているらしい。どうやら江川氏と同じ感覚のマスメディアによって山上被告によるテロの効果は最大化されたようだ。岸田首相襲撃犯木村隆二容疑者のようなテロの継承者――コピーキャット(模倣犯)を産みだしてしまうほどに。

江川氏はまたこんなツイートもしている。

これは俳優国生さゆり氏の或るツイートに対する感想だ。やはり違和を強く覚えた。ただ、いきなりその理由を述べてもわかりづらそうなので、江川氏が国生氏批判に至った経緯をあらかじめ説明してから、私見を明かしたい。

発端は先の衆議院議員補欠選挙(以下、衆院補選)に故安倍元首相の選挙区だった山口4区から立候補した立憲民主党(以下、立民党)公認候補有田芳生氏の演説「この下関って統一教会の聖地なんです」だ。たったこれだけの演説だが、有田氏が本気で当選を目指していたのなら、不適切と思われる要素がいくつも含まれている。

およそ次の通りだ。

① 冒頭のフレーズはインパクトが強すぎる
② 統一教会の「聖地」という不快な事実を無理やり知らされれば地元民・出身者は反発する
③ 統一教会と深い関わりを持った国会議員は立民党内にも多数いる
④ 選挙民の多くは統一教会問題を衆院補選の重要な争点とは考えていない
⑤ 故安倍元首相に投票してきた選挙民は統一教会の働きかけに応えてきた訳ではない

もっとも、有田氏は選挙後こんなツイートをしている。

どうやら本気で当選するつもりはなかったらしい。有田氏を当選させるために投票した山口4区の選挙民には惻隠の情を禁じえない。

若干脱線してしまった。話を本筋に戻したい。

上述した有田演説の問題点①と②に呼応するように下関出身の芸人田村淳氏はツイッターでこう呟いた。

このツイートに国生氏は、ツィッターで共感を表明し、有田氏を批判した。

これに憤った有田氏が自身のアカウントでこうツイートした。

先に紹介した江川氏による国生氏批判はこのツイートに賛同したものだ。個人的には言論の自由を脅かす恫喝にしか思えないが、錯覚だろうか。

著名人とはいえ田村氏も国生氏も一般国民にすぎない。対する有田氏は、約12年間参議院議員を務め、結果的には落選だったが、当選していれば衆議院議員になったはずの政治家――いわば、公人中の公人だ。ところが、江川氏は、優越する立場の有田氏に同調したうえに、「名誉棄損の誹謗中傷」と決めつけ、国生氏に謝罪と反省を求めたのだ。言論の自由を重んずるはずのジャーナリストであるにもかかわらず、だ。

統一教会と長く対峙してきた有田氏が主張したのであれば、下関がかの教団にとって聖地、ということ自体はたぶん事実なのだろう。「根拠なくヨシフさん『聖地』とか言っちゃった」との国生氏によるツイートは、誤謬を犯した可能性が高く、「軽蔑するよ」とまでいわれる覚えはない、と有田氏が憤るのは当然のことだ、と多くの同情が寄せられたかもしれない。もし有田氏が、SNS上で生じた誤解をSNS上で解こうと努め、ただちに訴訟を匂わすような乱暴な真似さえしていなければ。

一般の国民は有田氏ほど統一教会について知らない。自分の生まれ故郷が反社会的カルトの聖地、という知りたくもない事実をわざわざ教えてくれた人物に反感を抱くのも、検証不足から安易に他者を軽蔑するのも、愚かではあるかもしれないが、ごくありふれた人としての反応で、民法723条「名誉棄損」に抵触する「罪」であるようにはとても思えない。しかも、それが公選の立候補者という公人に向けられたものなら尚更のことだ。

国家権力の一角を担う立法府を目指す者に対し田村氏や国生氏程度の意見表明すら許されない社会の方が憲法で保障された自由主義・民主主義を守る結果に繋がる、と普通の人は考えるものなのだろうか。少なくとも、江川氏はそう考えているようだ。

他方江川氏の考えに同意できない人びとにとって有田氏による訴訟の仄めかしは一般国民の自由な発言を抑止するための恫喝に映る。そういう目的で起こされる裁判が「スラップ(strategic lawsuit against public participation)訴訟」だ。

Michał Chodyra/iStock

スラップ訴訟は、実際に提起されなくても、匂わせるだけで弱い立場の相手を威圧する効果が十二分にある。江川氏のツイートに違和を強く覚えた理由はすでにおわかりいただけた、と思う。田村氏や国生氏の有田氏に対する批判が演説の内容を曲解した挙句の的外れなものだったとしても、一足飛びに訴訟を仄めかしてしまっては政治家である有田氏の資質が問われかねない。そもそも言葉の力で大衆を説得し支持を得るべき立場の政治家が主張をたやすく曲解されている時点で……。

いや、もうこのくらいにしよう。いいたいことはごく単純だ。公選の立候補者への感情の吐露はたとえ誤解から生じたものであったとしても罪でもなんでもない。田村氏も国生氏も有田氏に謝罪する必要などないのだ。

有田氏に訴訟を進言した弁護士が実在するのかはわからない。弁護士も生業ではあるから、金のためになりふり構わぬ輩はきっといるだろう。だが、政治家や裁判を専業にする弁護士のような一般国民に比して明らかに優越的な立場にある人びとが、訴訟を仄めかしたり実際に訴訟を起こしたりすることにこのままなんの罰則も設けなくて良いのだろうか。

有田氏だけの話ではない。アゴラを主宰する池田信夫氏も統一地方選・衆院補選の期間内に有田氏と同じ立民党の議員小西洋之氏から訴訟を仄めかされている。

有田氏、小西氏がいずれも立民党所属なのはおそらく偶然だろう。党名にわざわざ「立憲」と冠しておきながら憲法で保障された「表現の自由」を堂々と抑圧する「反立憲主義」なのは凋落野党立民党に相応しい悪い冗談だ、と思うが、笑ってばかりはいられない。

スラップ訴訟には罰則を科すことを提言したい。すべての国民に憲法で裁判権が保障されている以上、訴訟そのものを認めないことには賛成できない。よって、裁判所は、訴訟の提起をいったん受けいれたうえで、原告が以下の項目に該当した場合、自動的にスラップ訴訟の審議対象とするよう定めておく、というのはどうだろう。

① 国会議員
② 国務大臣
③ 裁判官・検察官・弁護士の法曹三者
④ 資本力のある組織
⑤ 被告を大きく上回る経済力のある個人

そのうえで、スラップ訴訟の審議対象に当たる裁判が却下・棄却、原告側敗訴の結果に終わった時には、裁判所は原告に裁判費用の全額負担とともに懲罰的賠償または地位のはく奪を宣告できるものとするのだ。

好都合なことに有田氏は今統一教会からスラップ訴訟を仕掛けられているらしい。

上記④に該当するから、スラップ訴訟に間違いない、と私的には考える。

有田氏が国会議員でなくなってしまったのは残念だが、立民党のお仲間議員を通して国会に立法を働きかけることなら現状でも充分可能なはずだ。自身の被害感情には鋭敏な反面、批判を撥ねつけるための道具は失いたくない――有田氏はそんな志の低い政治家とは違う、と固く信じているので、大いに期待したいところだ。

自らも渦中にあるスラップ訴訟に罰則を科す法律の制定に向けて有田氏が尽力してくれることを、立憲主義者の一国民として切に願ってやまない。