ジャニー喜多川氏の性加害疑惑について、本日放送のテレビ朝日・サンデーLIVE!!で東山紀之さんが言及した。全国放送に切り替わったタイミングで、以下のように最年長の自分が発言するまで他の人に発言を待たせていたとコメントした。
『この件に関しましては、最年長である私が最初に口を開くべきだと思い、後輩たちには極力待ってもらいました。彼らの心遣いに感謝します』
先日15日、櫻井翔さんは日本テレビのnews zeroでコメントをせず画面から消えたことから、この問題から逃げたと批判が殺到した一方、東山さんのコメントは好意的に受け止める反応も見られる。
しかし、今回のコメントは当事者のジャニーズ事務所、あるいはジャニーズ事務所に所属する東山さんの意向が報道番組に影響を与えていた事を意味する、極めて異常な事態だ。
日本テレビとテレビ朝日は番組放送に当たってジャニーズ事務所および櫻井さん、東山さんとどのような話し合いを持ったのか、報道内容やコメントの内容、コメントをするしないについて、調整や打ち合わせ、すりあわせがなされたのか、なされていたのならどのような内容だったのか、報道機関として説明する義務がある。
昨日、女性自身プライムは、ジャニーズ事務所が代理店(おそらく広告代理店)に向けて、以下のようにサンデーLIVEで東山さんが性加害疑惑に言及する可能性について、一斉メールを送ったと報じた。
弊社創業者故ジャニ―喜多川の性加害問題につきまして、今週末の「サンデーLIVE!!」にて弊社所属の東山紀之が本件につきまして触れさせていただく可能性がありますことをご報告いたします。
テレビ欄にこのような情報はなく、ジャニーズ事務所が放送内容を知っているだけでもおかしい。しかも言及をしているのは所属タレントの東山さんだ。
この報道の時点で筆者は、もしジャニーズ事務所がサンデーLIVE!!の報道内容に関わっているとしたら、「これでは容疑者に事件報道をテレビ局が相談する状況と同じではないか?」「放送前の素材をオウム真理教に見せたかつてのTBSと同じではないのか?」と危惧をしていた。
その危惧が、東山さんの「後輩たちに発言を待ってもらっていた」というコメントでむしろ補強された事になる。
櫻井さんは逃げたのではなく、日本テレビの意向で発言をしなかったのでもなく、ジャニーズ事務所と東山さんの意向で発言を止められていた。これは明白な報道への介入である。東山さんの発言が事実であれば、これは櫻井さんの存在を念頭に置いたものであることは間違いなく、日本テレビは介入を受け入れたことになるのではないか? そうでなければ即弁明を出すべきだ。
筆者は『ジャニーズ事務所の「知らなかった」発言を批判できないテレビ局とスポンサーと広告代理店の忖度』で、櫻井さんがコメントしなかったことよりも、報道の当事者になりうる人をニュース番組に出演させることがそもそもの問題である、とテレビ各局のキャスティングを批判をした。今回の東山さんのコメントはまさにその問題による弊害が現れた事になる。
櫻井さんはコメントせずに逃げたと批判された一方(実際は発言を抑えられていただけ?)、東山さんは堂々とコメントして男らしい、と感じた人は多いかもしれないが、この件は決してそのような気分や精神的な話ではない。
今回の東山さんの発言からわかることは、報道機関であるテレビ各局が報道対象の当事者、もしくは当事者に極めて近しい櫻井さんや東山さんと、報道内容を擦り合わせていた可能性が極めて高い、ということだ。
そして各局がジャニーズ事務所の意向を無視して出演者個人と話し合う事や、櫻井さんと東山さんが事務所を無視して発言する事は極めて考えにくい。これはジャニーズ事務所が事前に東山さんが発言すると把握していたことからも明白だ。
なお、これらの指摘は東山さんの言動に問題があるということではない。東山さんのコメント通り、最年長の自分が最初に発言すべきと考えること自体に違和感はない。問題はそれを各局に伝えたジャニーズ事務所であり、それを受け入れた可能性がある各局の態度だ。
多くの報道機関は放送前の映像や掲載前の原稿について、事前確認を原則として認めていない。その理由は何をどのように伝えるか、あるいは伝えないか、報道の自由や編集権に関わるため、言論への介入を防ぐため、と説明している。これは報道機関が求められる報道倫理として、極めて重要なルールとなる。
今回の発言に関する経緯は、これらの説明と矛盾しており、報道機関に求められる中立性、客観性を著しく逸脱している可能性がある。これは決して枝葉末節の話ではなく、東山さんの発言に至るまでの経緯すべてがそのままテレビ各局のジャニーズ忖度を体現しており、性加害疑惑の本質そのものと言える出来事だ。各局ともこの件について説明責任があるはずだ。
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中嶋 よしふみ FP シェアーズカフェ・オンライン編集長
保険を売らず有料相談を提供するFP。共働きの夫婦向けに住宅を中心として保険・投資・家計・年金までトータルでプライベートレッスンを提供中。「損得よりリスクと資金繰り」がモットー。東洋経済・プレジデント・ITmediaビジネスオンライン・日経DUAL等多数のメディアで連載、執筆。新聞/雑誌/テレビ/ラジオ等に出演、取材協力多数。士業・専門家が集うウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長、ビジネスライティング勉強会の講師を務める。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年5月21日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。