なぜ?地方の億ション:地方に留まる人を増加させる理由とは?

大都市では当たり前になってきた億ションですが、地方にも続々と生まれ、それがかなり売れていると報じられています。つい10年ぐらい前は億ションは特別な人が住むところ、というイメージがあったのですが、富裕層が高級マンションに本格的に手を出すようになったその背景を考えてみたいと思います。

億ションのイメージ K2_keyleter/iStock

福岡市はこの10年でマンション価格が2倍になったとされます。そのきっかけは2014年の国家戦略特区への指定があります。福岡市は空港が街からすぐそばにある利便性故、航空法で一定地域が高さが67メートルに制限されていました。それが特区への指定により大幅緩和されたことから高層ビルがニョキニョキ建ち始めたのです。

これは福岡市の都市化を確実にさせたと言ってよいでしょう。48階建ての海の見えるレジデンスなど高さが1位から5位までは全部特区指定以降の建物です。福岡は九州の中心地として人口集積能力を持っています。これがそれまでの単身赴任族のみならず、家族層から相続対策のマンション購入まで新しい需要を生み出したとみています。

同様に高級マンションが増えているのが四国の玄関、高松市。四国は高松より松山の方が栄えているというイメージがあるのですが、関西経済圏により近いこともあり、高松市の人口はこの20年ほとんど変化していません。つまり、地方都市の特徴である人口減が起きていないのです。人口年層分布の推移をみると確実に高齢化していますが、減らないということは人口が流入しているわけで四国の人口集積地になっている公算が高いとみています。

福岡も高松、また札幌も同じなのですが、九州、四国、北海道には一種の島国的思想が若干あり、島の人は島の中からあまり出ず、島内リロケーションを図るのではないか、と推察しています。

では家族層や若年層が一部の地方都市に集積してきている点についてです。私のお客さんに長崎から東京に出てきた若い女性の方がいます。東京に出てくることに非常にためらい、ようやく上京してきた、という感じです。東京の人は冷たいのではないか、ちゃんと生活できるのかなど東京の人にはなんでもないことが地方の若者にはとてつもないハードルになっているのです。かつては東京、大阪など大都市に行くことが当たり前のようだったかもしれませんが、それが変わりつつあるかもしれません。

私は親せきが四国ですが、多くは「関西までは行けるけど東京はとてもとても」と言うのです。そのようなメンタルバリアが逆に地方に留まる人を増加させた可能性はあります。ただ、田舎=プライバシーの欠如という若者にとって頭痛の種があります。「〇〇ちゃん、昨日、あの店で見かけたよ」といった話です。おちおちデートも出来ないのです。その点、地方都市といえどマンションは少なくとも「鉄の扉の向こう側」でお隣ともそれほど親密には付き合わないという安心感があり、マンションへの潜在的需要の高さが生まれているのだと思います。

経済的に見れば地方在住の高齢者の相続対策で高額マンションを購入することはあるでしょう。地方の人もそれなり持っている方が多いのです。農地を売った人もいるでしょう。そういう方がポンと億ションを買うことはあり得ます。ただ増えてきたと言ってもまだ都市によっては10戸、20戸からせいぜい全部合わせて100戸といった程度で基本的にはシャローなマーケットで、すそ野が広い市場ではないでしょう。特に再販、つまり中古を誰かに売却するのはその地方に縁がない人や大都市圏の人がそれを購入することは考えずらいので、至難の業になるでしょう。

むしろ、私が期待しているのは地方都市の活性化によりコンパクトシティが進むことを期待しています。日本の人口は見る見るうちに減少していくのですから当然、国土利用計画を見直さねばなりません。インフラ整備や維持に関しても台風や自然災害の度に人里離れた村の復旧工事はそのうち困難になってくるはずです。私の住むバンクーバーから車で4時間ほどの小さな街も豪雨の水害で埋没した後、復旧できず、4-5年経ちますが、ほぼ住めない街になりつつあります。しかし、それはけっして海外だけの話ではないのです。

不動産産業は日本経済を引っ張る役割は大いにあるわけで、社会や技術の進化が地方活性化を後押しするという社会学的要素を考えると大都市ばかりではなく、地方の億ションを含む住宅需要は時代の新たなる幕開けとなるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年5月23日の記事より転載させていただきました。