ニューヨーク州からカリフォルニア州の都心部といえば、青空をコントラストにそびえる超高層ビルが印象的ですよね。
しかし足元、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がリモートワークは「道徳的に間違い」、米運用会社大手ブラックロックが社員に対し少なくとも週4回の出社を要請するなかでも、オフィス空室率はskyrocketingの言葉よろしく急上昇中なのです。
商業不動産会情報会社コースターによれば、全米1~3月期のオフィス空室率は12.9%と、6期連続で上昇した結果、データを公表した2003年以降で最悪でした。コロナ直前でありリーマン・ショック後の最低である2019年Q2は9.4%だったものの、世界が一変したかのようです。また、利用可能率(availability rate:空室と現在賃貸中のスペースのうち、更新されていない、あるいはサブリースのために提示されているスペースを合計したもの)も16.4%と過去最高を記録。企業の普及に合わせ、不要なスペースの契約解除に動いている様子が伺えます。
調査元によってオフィス空室率の数字は異なるものの、ニューヨーク州NY、イリノイ州のシカゴは23年Q1に過去最悪を更新するほか、テキサス州のダラスやヒューストンも高止まりが続きます。
チャート:全米の都市別では、サンフランシスコ(SF)を中心に軒並み上昇
(作成:My Big Apple NY)
テキサス州ヒューストンやダラスを始め南部でオフィス空室率の上昇が目立つ背景としては、コンピュータ大手HPEやソフトウエア大手セールスフォース、EV大手テスラが本社をテキサス州に移転するなか、低金利もあって建設ラッシュを迎えたためです。その他、カリフォルニア州の場合は特殊要因も重なります。ディスカウント小売大手ターゲットが決算発表後のカンファレンス・コールで窃盗や組織犯罪の影響で5億ドル相当の減益を予想したように、犯罪の増加を受けて企業も従業員も出社に消極的なのですよ。
カリフォルニア州の特殊要因はさておき、オフィス空室率が上昇する主因はコロナ禍後に普及したリモートワークにあります。ピュー・リサーチ・センターによる調査によれば、テレワークが可能な労働者のうち、2023年2月時点で完全にリモートワークの割合は35%と、2022年1月の43%、2020年10月から低下したとはいえ、コロナ禍前を7%上回ります。何より、出社とリモートワークのハイブリッドを選択する割合は41%と、2022年4月の35%を上回りました。
チャート:リモートワーク、コロナ禍を経て米国人の間で浸透
(出所:My Big Apple NY)
プライベート・エクイティ大手KKRのパートナーでロジャー・モラレス商業不動産部門ヘッドは、大手法律事務所グッドウィンとコロンビア大学ビジネススクール主催の2023年不動産資本市場会議で「米国はオフィス部門の大きな苦境サイクルに直面するだろう」と予想していました。
また、ムーディーズ・アナリティクスが2023年Q1に商業不動産価格が2011年以降で初めて下落した指摘した上で、マーク・ザンディ首席エコノミストは一段安に警告、5年先にピークから10%の下落を予想します。
そして、6月1日には米銀大手ウェルズ・ファーゴの最高経営責任者(CEO)が、オフィス融資で「損失の発生を見込む」と発言しました。
商業不動産は今年と来年に借り換えラッシュを迎えるだけに、オフィス空室率の上昇は決して歓迎すべきニュースではありません。足元で金融不安が後退しても、地銀のショートが高水準であるのは、米商業不動産ローンのうち中堅・中小銀行が約7割を占めているためではないでしょうか。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年6月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。