1. 政府の金融勘定:日本
前回は、企業の金融勘定について主要国ごとの比較をしてみました。
日本の企業は1980年代に主に負債のうち借入を極端に増やし、2000年代あたりでそれを調整する期間が見受けられました。
他の主要国企業は、資金過不足が対GDP比でプラスマイナス5%程度の範囲でゼロ近辺でアップダウンしているだけです。
日本の企業は1980年代の大きく資金過不足の状態から、1998年位以降の大きく資金余剰の状態へと転換しています。
日本企業の変化の異質さが数値的にも現れているようです。
今回は、政府の金融勘定を比較してみたいと思います。
経済は主体間で繋がっているわけですから、これまで見てきた家計、企業の挙動へのリアクションとして政府がどのように振舞ってきたかが良くわかるのではないでしょうか。
まずは、日本政府の金融勘定からです。
図1が日本政府の金融勘定 対GDP比です。
前回、資金循環統計のデータをご紹介しましたが、今回はOECDのデータとなります。
日本は1991年にかけて資金過不足がプラス化していき、その後マイナスに転じます。主に債務証券(国債、オレンジ)が増えたためですね。
特に1997年→1998年に一気に増え、その後高い水準が続きます。
2009年の増加はリーマンショックを受けてのもので、後ほど明らかとなりますがこれは各国共通の挙動です。
一方、1998~2004年ころの高い水準が日本固有の挙動で、企業の黒字化に伴って政府の負債が増加した時期となりそうです。
また、日本の場合、金融資産の増加もそれなりに多いようですね。
全体を通じて、1990年代以降の資金過不足はマイナス5~10%程度で推移しています。
2. 政府の金融勘定:アメリカ
次にアメリカ政府の金融勘定を眺めてみましょう。
図2がアメリカ政府の金融勘定 対GDP比です。
やはり日本同様で多くの期間で資金過不足マイナスになっていますね。マイナスの水準でいえば、日本よりも大きそうです。
2009年、2020年の急激な高まりはリーマンショック、コロナ禍へのリアクションと考えられそうですね。
1982~1993年あたりで資金過不足マイナス5%強の状態が続いていたようです。
また、日本とは異なり金融資産の増加があまり見られないのも特徴的ですね。
3. 政府の金融勘定:ドイツ
続いてドイツの状況を眺めてみましょう。
図3がドイツ政府の金融勘定 対GDP比です。
1980年代のデータがないのが残念です。
緊縮的と言われるドイツ政府ですが、2010年頃までは資金過不足でマイナス5%弱と、それなりの資金不足の状態が続いていたようです。
1995年にピンポイントでマイナスのタイミングがあるのが興味深いですね。
1993年にドイツは深刻な不況に見舞われた(経済企画庁)、という事ですがそれに対するリアクションなのかもしれません。
2011年以降からプラス化していき、コロナ禍でまたマイナスに転じています。
確かに負債のうち債務証券(国債)の水準は日本やアメリカよりも少な目ですが、資金余剰は2012~2019年のあたりに見られる程度ですね。
3. 政府の金融勘定:フランス、イギリス
続いてフランスとイギリスについても眺めてみます。
図4がフランス政府の金融勘定 対GDP比です。
1996年以降のデータですが、挙動は他国と似ていますね。やはり2009年と2020年に大きく資金不足となっています。
経済的な危機になると、政府がリアクションして負債を増やしている状況です。
概ね資金過不足でマイナス5%前後で推移しています。
図5はイギリス政府の金融勘定 対GDP比です。
1991年から1997年頃にかけて資金過不足が大きくマイナスになる期間が観測されます。
経済企画庁の情報によると、イギリスは1989年から1992年にかけて景気後退期だったようです。
1テンポ遅れて政府が支出を増やして対応したという事なのかもしれませんね。とても興味深い挙動だと思います。
その後2000年にかけて資金過不足が解消されていきますが、2001年からはまたマイナスです。
概ね挙動としてはほかの主要国と連動しているように見えますね。
4. 政府の金融勘定:カナダ、イタリア
続いてカナダとイタリアです。
図6がカナダ政府の金融勘定対GDP比です。
とても特徴的な傾向ですね。
1990年代後半までは資金過不足が大きくマイナス(5~10%)で、その後はゼロ近辺が続きます。
リーマンショック、コロナ禍でのリアクションも確認できますが、比較的すぐにゼロに戻っていますね。
図7がイタリア政府の金融勘定 対GDP比です。
1993年以前のデータが無くて残念ですが、1995年の時点では資金過不足マイナス8%の状態だったようですが、その後5%未満の状態で推移しています。
イタリアは経済が不安定で、政府の負債が多い国として知られていますが、1995年以降の金融勘定としては他国とそれほど変わりません。
ストック面での純金融負債を見ると、1995年の時点ですでに1兆ユーロに達していて、ドイツやフランスの倍程度の水準だったので、それ以前のマイナスが大きいのかもしれませんね。
5. 政府の金融勘定比較
最後に各国政府の資金過不足を1つのグラフにまとめてみましょう。
図8が一般政府の資金過不足 対GDP比をまとめたグラフです。
各国ともアップダウンがありますが、多くの期間で同じような挙動をしている事がわかります。
2009年、2020年と極端にマイナスなのは、それぞれリーマンショック、コロナ禍に対するリアクションですね。
日本の政府が特殊な挙動をしているのが、1998~2004年です。この期間他の主要国は比較的資金不足の程度が低いか、黒字化していた期間になります。
この期間は日本の企業が負債を減らしていた時期と一致しますね。
そのリアクションとして政府が負債を増やしていると理解できそうです。
図9はIMFによる政府の純負債 対GDP比の推移です。
日本政府は、1997年までは比較的低めの水準で、ドイツ、フランスと同程度でした。
それが1998年以降でマイナス水準がが大きく増え、イタリアと同程度となります。
この当時の挙動分だけ、負債の水準が他の水準よりも嵩増しされているような状況ですね。
6. 政府の金融勘定の特徴
今回は、主要国政府の金融勘定について眺めてみました。
主要国の政府は、経済危機時に大きく負債(主に国債)を増やすという挙動がみられます。それ以外にも、基本的には資金過不足マイナス気味で推移している共通点も確認できました。
日本政府の負債水準が問題になりやすいですが、その一部は1998~2004年の企業の変調時に積みあがった分が大きく影響していそうですね。
この期間が他国と比較して日本特有のイベントだったことがわかります。この期間で対GDP比40~60%分追加で積みあがったような推移です。
経済活動が主体間で繋がっているため、企業や家計の変調に対して政府がリアクションしているような印象を持ちました。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2023年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。