少子化対策は仮に成功したとしても時間稼ぎでしかない

島澤 諭

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日本はスウェーデンを目指す

共同通信社の報道「子ども予算「スウェーデン水準」 少子化策3兆円半ば、素案明記へ」(6月1日)によれば、

政府の「次元の異なる少子化対策」の素案に、子ども政策の予算規模を今後3年間は年「3兆円半ば」とし、「スウェーデンに達する水準となり、画期的に前進する」と明記する

つまり、「異次元の少子化対策」は、スウェーデンの予算規模を目指すとのことだ。

低下するスウェーデンの出生率

このように、日本国政府が少子化対策のお手本とするスウェーデンの合計特殊出生率の推移を、国連のデータよりみてみると、1950年以降2度の波を描きつつ緩やかに低下していったが、1999年1.50を底に出生率は反転した。

しかし、足元を見ると、2010年の1.98をピークに次第に低下傾向で推移し、2022年時点の合計特殊出生率は1.67となっている。

図1 スウェーデンの合計特殊出生率の推移
出典:United Nations, 2022 Revision of World Population Prospects

出生率でスウェーデンを上回るのは先進国で11か国

確かに、2022年の日本の合計特殊出生率1.257に比べれば高い水準にあるものの、OECD38か国の中で見ると、スウェーデンを上回っているのは11か国(エストニア、コロンビア、チェコ、デンマーク、アイスランド、ニュージーランド、アイルランド、フランス、メキシコ、トルコ、イスラエル)あり、特にフランスは1.79となっている。

図2 OECD諸国の合計特殊出生率の比較
出典:United Nations, 2022 Revision of World Population Prospects

なお、OECD38か国で人口置換水準(人口移動がゼロと仮定して、人口が増加も減少もしない均衡した状態をもたらす合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の平均)のことであり、先進国では2.1前後)である2.1を上回っているのはイスラエルだけ(2.95)であり、1を下回っているのは唯一韓国だけ(0.87)である。

それにしても、政府はなぜ、フランスではなく、スウェーデンを目指すのだろうか。この答えは、少子化対策関連の予算規模にある。

いま、OECDによれば、2019年時点でスウェーデンはOECD38か国中家族向け社会支出対名目GDP比が一番大きいことが分かる(図3 なお、日本の数値は2020年)。つまり、スウェーデンは、先進国の中では、子育て対策としてもっとも予算を割いている国と言える。

一方、合計特殊出生率でスウェーデンを上回るフランスは少子化対策の予算規模では日本の2.00%を上回ってはいるが、2.71%と、スウェーデンの3.42%を0.7ポイント下回っている。

図3 OECD諸国の家族向け社会支出対名目GDP比(%)の比較
出典:OECD,  Social Expenditure

まず予算規模ありき

予算規模と出生率の関係だけで考えれば、フランスの方がスウェーデンよりも費用対効果はよいのだから、本来はスウェーデンではなくフランス並みを目指し少子化対策を立案し予算を確保したうえで一考すべきである。

しかしながら、何といっても異次元の少子化対策に取り組まなければならないので、費用対効果を度外視して、なにがなんでもOECDトップの予算規模を誇るスウェーデンに並ぶ必要があるのだろう。

結局、まず予算規模ありきなのだ。

止まらない日本の少子化

では、もし仮に岸田文雄内閣の「異次元の少子化対策」が功を奏し、日本の合計特殊出生率がスウェーデン並みに急回復したとしたら、日本の出生数と総人口はどのような動きを示すのだろうか。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」にある条件付推計 C 合計特殊出生率・外国人入国超過数仮定による感応度分析 表C-5. 合計特殊出生率 1.80(2070年),外国人入国超過数本推計仮定(死亡中位)により、合計特殊出生率が1.80に回復した場合の出生数と総人口の動きを見てみる。

図4 合計特殊出生率が1.80に回復した場合の出生数の動き(単位:千人)
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」

まず、中位推計では、2043年に70万人、2052年に60万人、2070年に50万人、2086年に40万人、2112年に30万人を下回り、2120年には出生数が26.7万人にまで減少するのに対して、「異次元の少子化対策」が実施される2024年に合計特殊出生率が1.80と現在のスウェーデンより高くフランス並みになったとした場合、確かに中位推計よりは出生数は増加する。

しかし、一時的に出生数は反転したとしても、2033年に98.7万人とピークを付け、長期的に見れば少子化していくこととなり、2120年には73.6万人と2022年の77万747人を下回る。

その結果、総人口の推移をみても、人口減少には歯止めがかからないことが確認できる。

図5 合計特殊出生率が1.80に回復した場合の総人口の動き(単位:百万人)
出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」

つまり、合計特殊出生率がスウェーデンやフランス並みになっても少子化は緩和されるかもしれないが、長期的な出生増へと反転し続けることはない。

少子化対策は時間稼ぎ

以上のように、残念ながら、日本の少子化を確実に反転させる術は存在しない。

現役世代が減り続ける中で、経済・社会を維持し、高齢者を支えていくためには、人口減少を受け入れ、それを前提としても持続可能な経済・社会への変革こそが急務だ。少子化対策はそのための時間稼ぎでしかないのだ。