私がこのブログを始めた一つの理由は起業の応援でした。なので、一昔前は起業に関するコラムをずいぶん書いてきたのですが、このところ、めっきり書かなくなりました。理由は言うほど易しくない時代になったからであまり無責任なことも書けないという悩みがあるのです。
起業者は減っているのか、この統計は割とわかりにくいのです。例えば設立法人数が増えているから起業者は増えていると短絡的に説明している情報もありますが、それは嘘。なぜなら、法人設立はあらゆる目的で行われるからです。例えば大企業はなぜ数多くの子会社、関連会社を抱えるかと言えば「胴元」の親会社が本体への影響力をいつでも調整できるよう別法人として立ち上げるケースが主流だからです。損が出ればさっさと切るし、大きく花咲けば第三者の資本も入れられるし、本体に吸収する自由度もあるのです。つまり会社はアメーバのようなもので自由自在に使い分けできるのです。
近代日本でいう起業はそもそもは戦後直後の食糧難、物資難の時代に自給自足的な思想から自営業が無数に生まれたところに起点と言ってもよいでしょう。その頃は皆ゼロスタートでヨーイドン、全員、公平で努力する者が報われる、そんな社会でした。その中から大きく育った人たちが出てきて食糧関係ならダイエーやイトーヨーカドーといったスーパーマーケット事業が続々と伸びてきたのです。規制も緩く、枠組みもルールもそんなに小うるさいことはなかったので皆さんがのびのびとビジネスをしていたと思います。
また専門的ノウハウと資金力と人材を要求される製造業に比べて小売業と飲食業は小資本でスタートできることも起業を後押ししたと思います。これは今日の日本の代表的産業の一つであるB級グルメやアニメ、100均などを大きく下支えしたと言えます。
残念ながら今日、起業者は実態としては減っています。中小企業庁のデータを参考にすると起業希望者は2007年は101万人いたのに17年には72.5万人まで減少しています。実際の起業家数も07年は18.1万人だったものが17年には16万人まで減少しています。一方、副業希望者だけ見れば07年から17年の10年で72万人から78万人にまで増えています。しかもフリーランス起業家は46%が50歳から上の方の起業です。これはとりもなおさず、サラリーマンを早期退職、ないし定年退職のちに「コンサル業」として起業される方が主体であるとみてよいでしょう。
この「コンサル業」ですが私は基本的には事業だとは思っていません。なぜなら直接的な生産性は無いのです。「資本と投下し生産物を生み出す」という経済の原則を考えるとコンサルはアドバイスだけで何もリスクを取らず、自分の知見に基づくノウハウの提供だけです。この業種は確かに必要ではありますが、起業者の半分を占める意味はないのです。
では起業がなぜ難しくなったのでしょうか?理由はいくらでも思いつきますが、大きくは2つです。1つは日本ではニッチがほとんどなくなったとされること、またニッチを攻めても瞬く間に同業者に真似され、特色を生かせない点があります。もう1つは必要資本が大きくなったこと、それに対して銀行は原則貸さない一方、投資家も簡単に募れなくなったことがあります。
クラウドファンディングがあるじゃないか、と反論されるでしょう。私はそれにはとてもネガティブなのです。理由は多くの無知な出資者を抱え込み、彼らが好き勝手な意見を言うことで起業家は振り回されるからです。私の経験上、株主は少なければ少ないほど良い、そして尖ったビジネスを目指すことが必要なのです。
最近、あるところから相談を受けました。出資を求められた、出資はイーサリアム経由で最低4万円から、その出資額は将来何千倍にもなります、と。これ、信用してよいのでしょうか?という話です。私の答えは即答、否です。まず、出資する側がたとえ少額でも何のために出資するのかという意義や理解がなく、単に「お金が〇〇倍になる」という部分だけに囚われていること、2番目に私はなぜ何千倍にもなるという部分の説明が私が頭の中でできちゃうのです。
イーサリアムと聞いてピッと思い浮かぶのはNFT(非代替性トークン)なのです。ビットコインとイーサリアムの違いを挙げよと言われたら私ならNFTとの相性の良さの差だと考えています。暗号資産の中でビットコインとイーサリアムを持ち上げていうなら「暗号資産の代表的インフラ」です。その下にNFTがぶら下がっているというイメージです。上述の出資はイーサリアム経由NFT購入は一目瞭然で、将来価値が上がるはずのNFTを換金するのにイーサリアム経由にするということではないかとみています。
しかしそのNFTが何百、何千倍になる保証はどこにも存在しません。私のビジネス、これから儲かってウン百倍にするからお金貸して、と言われて一つ返事でOKする人はいないですよね。だけど、騙されやすいのは4万円からと宝くじのような大化けを煽ることで人々は騙されるのです。4万円ならいいか、って。だけど4万円で済むケースは無いのです。たっぷり吸い取られるでしょう。だから否なのです。
話を本題に戻し、まとめましょう。起業のチャンスは少なくなりつつあります。もちろん、時代の変革の中で今までの常識が非常識となり、新たなビジネスが生まれるとされます。例えばサブスクはその典型。そして月〇円払えば使い放題、食べ放題といったビジネスが生まれたのはコロナ前です。結局、サブスクビジネスはどんどん的が絞られ、大資本の会社が主導しつつあります。
小資本では勝てない、これが残念ながら現在言えることです。「大恐竜時代」のようにでかいものが全てを淘汰する、それが資本主義の末期的症状ともいえる状況にあるのです。もしも起業で勝ちたいならインド、バングラディッシュあたりでビジネスを立ち上げる方がそれこそ何百倍にもなる可能性を秘めています。だけど、ビビっちゃうでしょうね、バングラでビジネスなんて。行けば分かります。空港まで行ったら普通、帰りたくなりますよ。そんな喧騒こそ、チャンスがある、とも言えます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月6日の記事より転載させていただきました。