真っ先にDX化が必要なのは「園と学校」

黒坂岳央です。

昨今、行政や企業で「DX化(デジタル化)を進めて労働生産性の向上を実現させ、人口減少に備えよ」という意見が多く出ている。確かに多くの場所でまだまだ遅れを感じる。特に地方は顕著であり、未だに受注をFAXや電話でしか受付なかったり、Eメールなどテキストコミュニケーションを完全に受け付けない職場は多い。

だが、個人的によりDX化が急務と感じる団体がある。それは園と学校だ。筆者は地方に住んでいるのだが、DX化が「遅れている」というレベルではなく、「昭和のまま止まっている」という表現が近いのかもしれない。

「この作業をデジタル化すれば、現場の保育士や教育者達がもっと楽になるのに」と感じることは本当に少なくないのだ。特に学校では教師のなり手が減っており、労働生産性の向上が求められている。ちなみにこれは日本だけでなく、米国でも大変深刻な状況だ(詳細はアメリカの学校で教師が消えていく恐るべき事情を参照されたい)。

maroke/iStock

テキストコミュニケーションのペーパーレス化

真っ先に感じたところは、教育現場と保護者とのコミュニケーションはペーパーレス化を実現させた方が良いということである。

園や学校からの連絡事項は紙のプリントや、手書きの連絡帳が中心である。配布されるプリントによっては独特の柔らかい丸文字での手書きの文章、温かみのあるかわいい挿絵などで構成されている。あくまで個人的にはこうした人間味の感じるプリントはとても好きだ。心地よいノスタルジーを感じることも少なくない。

だが、現場の苦労を考えるとこれは大変な労力のはずだ。プリントする手間や、手書きで文章を書くのはとてつもない労力である。しかも一斉配布のプリントだけでなく、連絡帳に個別に連絡帳へ毎日書き込むのは大変な時間がかかっていることは想像に難くない。さらに宿題で提出したプリントの採点や、一言コメントなどが添えられているのを見ると「先生方は一体、いつ休んでいるのだろう?」と感じてしまう。

文章は手書きよりキーボード入力や、音声入力の方が何倍も早い。複数の生徒に同じ内容のフィードバックをするなら、コピペによる流用も可能だ。それで文章の品質が損なわれるわけではない。保護者の多くは30代〜40代前半が中心でITデバイスにも慣れている世代だ。テキストコミュニケーションをペーパーレス化することで、かなりの省力化を実現できるのではないだろうか。

保護者間の集まりの合理化

また、保護者が集まって話し合いをする場でも、DX化の導入可能性を感じることも少なくない。

この場合、近くの公民館に集まってあれこれ話をしたり、一人ずつ事情を伺ったりするケースが多いだろう。多くの場合は全員同じ時間、同じ場所に集まるという途方もないエネルギーをかける割に、意見の出し合いや情報共有がほとんどではないだろうか。

これをオンラインに移すには、小難しいシステムなど不要であり、グループLineで共有すれば事足りる。「Silence As Acceptance(沈黙は同意)」の原則を用いて、異論や違う角度からの意見がある人だけ投稿すればいい。また、その内容を学校にシェアをするのも、やはりオフラインである。

「これにはセキュリティの懸念がある」という意見も出るかもしれないが、このような学校や親の話し合いの記録に市場の付加価値など皆無に等しい。国家の重鎮たちによる会議の議事録とは質的にまったく異なる。心配するような大きな問題が起きる可能性は極めて低い。その一方で、導入を見送れば確実に無駄なエネルギーと時間を使い続けることになる。可及的速やかにDX化をすることで、教育関係者や保護者ともに省力化を測るべきであろう。

DX化の推進で一番必要なのは、権限を持つものがITに明るいことである。地方の小さな企業の中にも、極めてデジタルに強い会社があって驚かされることがある。システムの多くはクラウド、テキストコミュニケーション、AIを用いて合理的かつスピーディーにビジネスを進める取引先もある。これらの共通点は「経営者などのトップ層がITに強い」ということだ。

園や学校でデジタル化が進まない理由は、ITに強い人材が少ないからだ。日本人のITリテラシーやシステム理解力の向上が必要な時が来ている。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。