マイナンバーカードを廃止すれば同性婚の問題も解決する

池田 信夫

マイナンバーカードが大混乱である。 別人にカードを交付したり、他人の個人情報を紐づけたり、コンビニで他人に交付したり、という人為的ミスや入力エラーは、全部で8400万枚も発行したのでしょうがない面もあるが。つくれないはずの家族名義の口座が13万件以上もできたのは、明らかに設計ミスである。

グリーンカードと住基ネットのトラウマ

こんなひどい設計になった根本原因は、マイナンバーカードがいろいろな個人情報システムのパッチワークだからである。このような国民背番号システムはどこの国でもあり、日本でも1980年の税制改正で個人に納税者番号を振るグリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)の導入が決まった。

しかし税金をごまかしたい自営業者が反対し、金丸信などの政治家が共産党と一緒になって、法律が成立してから「プライバシーの侵害」を理由に反対運動を起こし、グリーンカードは1985年に凍結されてしまった。

1999年に住民基本台帳法の改正で住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)で住民票をデジタル化することが決まったが、身元を知られたくない部落解放同盟などが反対し、櫻井よしこ氏は私は番号になりたくないなどと主張して、大反対運動が起こった。

2002年に住基ネットは稼働したが、その用途は自治体の行政事務に限定され、住基カードの利用率は1%足らず。住基データは住所氏名だけなので、全国民あわせても10GB足らずで、DVD1枚にも収まるが、これをコンピュータ・センターに収容し、24時間体制で監視しているので、維持費は年間180億円かかる。

こういう大騒ぎで、国民背番号は官僚のトラウマになってしまった。保険証や免許証の電子化も住基番号を使えばよかったのに、それができなかった(パスポートは住基番号でできる)。住基番号の用途がポジティブリストで法律に書かれ、国会で法改正しないと新たな用途に使えなかったからだ。

マイナンバーカードから住基番号へ

2013年にできたマイナンバー(個人番号)も、反対運動のおかげで用途が細かく限定列挙されたため、法律にない用途には使えない。持続化給付金にもワクチン予約にも、別々の番号をつけなければならない。それを改めて行政事務をデジタル化しようとしたのが、河野太郎デジタル相だった。

そこまではよかったのだが、マイナンバーは既存のいろいろなシステムを継ぎ足してつくったので、パスワードも4種類ある。他のシステムと互換性がないので、たとえば保険証をマイナカードに置き換えるには、全国民の保険証番号をマイナンバーに変え、使わない人には罰則を設けるなどの手間がかかる。

しかも物理的なカードとパスワードという時代遅れのセキュリティなので、落としたり盗まれたりしたら終わりだ。エラーがチェックしにくく、悪用しやすい。

「家族口座」が13万件もできた原因は、戸籍にフリガナがないためだ。今月、戸籍法を改正したので、今後生まれる子供にはフリガナがつくが、今まで8400万枚も発行されたカードにはフリガナがなく、データベースのソートもできない。

こういう戸籍ベースのシステムをやめ、住民基本台帳法を改正して住基番号の用途をネガティブリストにし、今のマイナンバーで扱っているデータをすべて移行してはどうだろうか。国民を個人として同定するだけなら住民票(住基データ)で十分で、それに他の納税者番号などを紐づければいい。

住基ネットにもパスワードはあるが、カードは発行せず、インターネットと接続してスマホアプリを使って生体認証でやれば、セキュリティは強まる。原則としてすべての行政事務をこの住基番号でやるが、データにはファイヤウォールを設け、他人のデータはのぞけないようにする。

「マイナンバーにはメリットがない」という人が多いので、公金入金口座を住基番号と紐づけ、登録しないと年金も生活保護も受け取れない制度にすればいい。この口座を使えば電子マネーも発行でき、マイナス金利も自由につけられる。

戸籍をなくせば同性婚もできる

マイナンバーの設計が劣悪なのは、戸籍という時代錯誤の制度をベースにしているからだ。これを日本古来の伝統と勘違いする人がいるが、江戸時代まで戸籍はなかった。今の戸籍は明治時代に「家」制度のインフラとしてできたものだ。

家は長男を「戸主」とし、女性や次三男には相続権がなかった。戦後の戸籍は戸主を「世帯主」と変え、相続権を男女平等にしただけで、その構造は明治時代と同じである。戸籍があるのは世界でも日本と台湾と韓国だけだったが、韓国では戸主制度は憲法違反だという判決が出て、2005年に戸籍は廃止された。

同性婚の問題も、戸籍をなくせば解決する。憲法に「戸籍」という言葉はないが、「婚姻」という言葉は戸籍上の婚姻と解釈されている。だから戸籍を廃止すれば婚姻もなくなるので、男と男が夫と妻として届け出れば、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立」するという憲法24条に違反しない。

戸籍のほぼ唯一の機能は相続だが、これは民法を改正して、住民票上の夫婦に(性別を問わず)相続の特例を認めればいい。

こういう改正には「日本古来の伝統を破壊するものだ」という類の批判があるだろうが、戸籍も夫婦同性も江戸時代までなかった。それは男を特権化する明治の家父長制の産物である。夫婦別姓をめぐる不毛な論争の背景にも、こういう日本の伝統についての誤解があるので、これを機に見直してはどうだろうか。