生成AIは教育分野で貢献する

スイスの武器再輸出法案に関するテーマでコラムを書くため、対話型人工知能(AI)のChatGPTに欧州の中立主義について聞いた。GPTは「中立主義には①軍事的中立、②外交的中立がある」といった答えは戻ってきたが、ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、フィンランドとスウェーデンの北欧中立国が北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請し、前者は加盟を実現、後者はクルド問題でトルコ側がまだOKを出していないので加盟は実現していないこと、ウクライナ戦争が契機でスイス内で武器再輸出案が議論されているなど、欧州の中立主義が揺れている現状については全く言及していないのだ。

OpenAI社の最高経営責任者 サミュエル・H・アルトマン氏 同氏SNSより

スイスの質問に対し、GPTは「スイスは国連加盟国ではありませんが、国際連合と密接な関係を持ち、人道支援や平和維持活動に積極的に参加しています」と答えた。実際は、スイスは2002年に国連に加盟している。ということは、GPTの情報は間違っているのだ。それともスイスに関連する情報に限っては2002年前での情報しか学習していなかったのかもしれない。生成AIは人間のように融通性がないから、システム作成者が提供した情報に従うだけだ。

次に、欧州に進出している中国国営企業の数について質問した。GPTは「私の知識は2021年9月までのものであり、最新のデータや統計を提供することはできません」と説明、GPTシステムの作成者が21年9月以後の情報をインプットしない限り、最新情報に基づく分析はできないという。

なぜChatGPTは「2021年9月まで」しかフォローしていないのか、という疑問が湧いてきた。当方なりに考えてみた。ChatGPTの最新版「GPT4」ならば多分、最新情報が入っていると思うが、オープンAIが昨年11月に世界に生成AIとしてChatGPTを世に出した時、ChatGPTの機能、その性質なりをユーザーに先ず理解してもらうことが狙いだったはずだ。だから「2021年9月まで」の情報を処理できるGPTを急いで世に出したのであって、それ以外の政治的な計算はなかったのではないか。

ただ「なぜ『2021年9月まで』で『2022年3月まで』ではなかったのか」という問いは残る。ChatGPTが2021年9月以降の情報を学習していたならば、世界の政治情勢に関連した議論が増え、オープンAIとしては対話型GPTを世界に紹介するという狙いが霞んでしまう危険性があったからかもしれない。例えば、2022年2月24日にウクライナ戦争が起きている。

当方の質問に対し、GPTは「私はオープンAIによって開発されたChatGPTという人工知能のモデルです。私の訓練データは2021年9月までの情報であり、その時点以降の出来事や最新の情報を直接的に知ることはできません。私はトレーニングに使用された大量のテキストデータからパターンを学習していますが、個別のイベントや特定の日付に基づいた情報を保持しているわけではありません。そのため、2021年9月以降の出来事についての情報は私の知識の範囲外です」という説明だった。

興味深い点は、スイスの中立主義についての質問でも分かったが、ChatGPTは間違うことがあるという事実だろう。ただ、生成AIの開発が急速に進展していけば、最新情報を迅速に処理し、それをもとにユーザーと対話できる時は来るだろう。

生成AIにどのような情報を提供するかで、ChatGPTが人類にとって大きな恩恵となるか、それとも危険な存在となるかが分かれてくる。生成AIもデュアル・ユースだ。

独週刊誌シュピーゲル(2023年5月27日号)はオープンAIのボス、ChatGPTの生みの親、サミュエル・アルトマン氏とのインタビューを掲載していた。アルトマン氏は「大多数の人はAIを生産的な目的で利用するだろうが、一部の人々がAIの技術を悪用するだろうから、その対策を講じておかなければならない」と指摘。同時に、「ChatGPTは教育分野で大きな役割を果たすだろう」と予想している。

欧州連合(EU)欧州議会は14日、フランス東部ストラスブールの本会議で、AIに関する規制案を承認した。例えば、システム開発に利用した著作物の開示を義務付けることが盛り込まれている。それに先立ち、国連のグテーレス事務総長はAI規制機関の設置を支持し、原子力エネルギーの平和利用を監視する国際原子力機関(IAEA)並みの監視機関の設置を要請している。

生成AIに詳しい友人は「ChatGPTに聞くのならば、現時点では哲学的、文学的なテーマがいい。世界情勢など流動的な情報についてはGPTはまだ準備が出来ていない」という。例えば「シェークスピア時代の王朝雰囲気が漂うドラマを書いてほしい」といったテーマならばGPTは喜んで答えてくれるという。学生たちが論文や卒論を仕上げる際に、ChatGPTは大きな助けになることは間違いない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。