ブリンケン国務長官が、6月18~19日に訪中しました。国務長官の訪中は、トランプ前政権でポンペオ氏が2018年10月に北京を訪問して以来、約5年ぶりとなります。また、ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)が訪中していましたが、バイデン政権の閣僚による訪中は今回が初めてです。
当初は2月に訪中予定のところ中国の偵察気球問題で棚上げされたように、両国関係の流れを年末からざっくり振り返ると緊張の連続でした。
①2023会計年度(22年10月~23年9月)の国防権限法で、台湾への武器支援向けに10億ドルの予算枠確保(1979年制定の台湾関係法で自営のための武器供与は可能)
②3月、バイデン政権は22年10月に続き半導体製造装置の対中輸出規制強化
③5月、広島G7サミット共同声明において、中国やロシアを念頭に「経済的威圧」に対応するため新たな枠組を創設
④5月、中国が米マイクロンの半導体調達禁止を決定
⑤5月、南シナ海上空で米軍偵察機の前を中国軍の戦闘機が挑発的飛行
⑥6月、ブリンケン氏が中国がキューバに情報収集施設を設置していたと表明
だからこそ、クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)は14日、ブリンケン氏訪中の主眼について、米政府は中国との競争が対立に発展しないよう「コミュニケーション・チャンネルの再確立」と説明していました。また、ブリンケン氏自身も「対立リスクの軽減が目的」と繰り返していたものです。
訪中したブリンケン氏は18日に秦剛外相と7時間半わたり協議を行ったほか、中国の外交担当トップの王毅・共産党政治局員とは19日、北京の釣魚台国賓館で3時間ほど会談しました。目に見える成果としては、中国外務省当局者が19日に発表したように、秦剛外相がブリンケン米国務長官の招請を受けて訪米の予定が固まったことでしょう。会談の様子は、ブリンケン氏のツイッターで確認できます。
画像;秦氏との会談後、ブリンケン氏は「開かれたチャンネルを通じ二国間関係を責任をもっていかに管理していくかを協議した」とコメント
(出所:Secretary Antony Blinken/Twitter)
画像:王氏との会談後、ブリンケン氏は「二国間並びに世界の課題について幅広く協議した」とツイート
(出所:Secretary Antony Blinken/Twitter)
ブリンケン氏は、習近平主席とも19日、約35分と短いながらも人民大会堂で会談を果たしました。米国務省の声明によれば、会談の冒頭でブリンケン氏は「バイデン大統領は、米中は両国の関係を管理する義務と責任があると信じているため、私に訪中するよう要請した」と説明。習主席は「安定的な米中関係」の必要性をアピールしたほか、CCTVで「率直で深い話し合い」ができたと明かし、いくつかの “特定の問題” について、進展と合意が得られたと表明していました。中国外交部が発表した会談に関する声明は、こちらでご覧になれます。
画像:習氏と会談したブリンケン氏、「率直で実質的、建設的な会談だった」と明記
(出所:Secretary Antony Blinken/Twitter)
ブリンケン氏の訪中をめぐっては、バイデン氏が5月の広島G7サミット閉幕後の記者会見で米中関係の「雪解けが近い」と発言したことが思い出されます。振り返れば、6月にバーンズCIA長官が5月に中国を極秘訪問していた事実が報じられており、この件を指していたのでしょう。今回の米中の歩み寄りは、2024年1月の台湾総統選挙、同年11月の米大統領選挙を前に、両国が対話を重視する必要性に着目したに違いありません。その上で、9月にインドで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議、あるいは11月に米国で予定するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で米中首脳会談が実現するのか、これからが両国関係改善の正念場となりそうです。
少なくとも、中国側にしてみれば成果は小さくなかったのかもしれません。ブリンケン氏は訪中を終え、NBCとのインタビューで(偵察気球問題の)章は閉じられるべきだ」と発言し、前向きな対話への一歩を示しました。実現すれば、2022年11月のG20サミット以来となります。
もうひとつ明るい材料として、中国側が用意した蓮の花が挙げられます。両者のテーブルの間に飾られた蓮は、中国語 「荷 (hé)」と発音するのですが、これは平和「和 (hé)」と同じなんですって。約35分間と短い会談だったものの、中国側からは少なくとも衝突を回避しようとするメッセージが添えられたことになります。
中国といえば、3月に米国債保有高(短期債含む)を2022年7月以来増加させ、8,693億ドルとなっていました。4月は8,689億ドルと小幅減にとどまり、足元で国債の売却ペースが急速に落ち込んだ点も注目されます。
チャート:中国の米国債保有高、2023年に入り減少ペースは鈍化
(作成:My Big Apple NY)
中国は鈍い中国景気回復を受け、トランプ前政権の置き土産である対中追加関税の撤廃を引っ張り出したいところ。2024年の米大統領選前に妥結の可能性は極めて低いながら、虎視眈々と糸口を探っていることでしょう。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年6月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。