グリゴリー・ソコロフ@シャンゼリゼ劇場(パリ8区)

グリゴリー・ソコロフ、4年半ぶり~♪

コヴィッドのせいでしばらく聴けていなかった。

コヴィッドは、最愛現役ピアニストであるペライアのパリ公演を潰し、もともと体調今一つの仙人ピアニストはそのままパリからフェードアウト・・。どこかでリサイタルやってるのかなぁ。あの神秘的で思索的で精神的な音色、ヨーロッパでやってるなら聴きにいきたい。

この世代、ポリーニはコヴィッド後もパリに来てるけれど、昨シーズンの演奏は老いが目立ち、今シーズンは2度の延期ののち、中止。アルゲリッチも、最後に聞いた時痛々しい演奏だったし、ピアノの天才じーちゃまばーちゃまたちは、そろそろ舞台を去り始めるのかもしれない。

そんな中、ヨーロッパ限定とはいえ精力的に弾き続けているソコロフ。久しぶりだし、彼もそろそろ老い始めちゃってるのかも・・・。

なんて思いながら、大賑わいのシャンゼリゼ劇場へ行ったら、全くの杞憂。神の境地になっていた。

相変わらずの照明落とした舞台から湧き上がる、一音一音の、圧倒的な迫力(お身体、ひと回り大きくなりました?)。パーセル(初めて聴く)&モーツァルトという古典で音数少ない作品だからこそ、一音一音の表情というか響かせ方が物をいう。若者にはまずできない、長い経験と思索が生み出す感動の音色。音の存在感が凄過ぎて、音が巨大というわけではないのに、鼓膜がヘトヘトになり脳みそもぐったり(もの凄くいい意味で)。

精神力を全部持っていかれるような緊張感あふれる素晴らしいパーセルののち、モーツアルト。ソナタ13、第一楽章の美しさに身も心も清められる。

そして、ソコロフリサイタルのおまちかね、第三部、アンコール♪

今夜は、ラフマニノフやショパンなど6曲、30分。ショパンの雨だれプレリュード、ラスト直前の高音のためらいと深さを兼ね備えた一音に、痺れる。マズルカの間の取り方も、くぅぅぅ~気持ちいい~。

ピアノ好き4人、揃ってソコロフ神を崇める。友達は、”彼の音は、極上のマッサージ。どうしてそのツボがわかるの? と聴きたくなるような、絶妙のポイントを刺激して、気持ちよくしてくれる”。うんうんわかる。鍵盤の芯をものすごいピンポイントでしっかり押さえていて、それが恐ろしいことに全ての音に対して。神業だ・・。

残念なのは観客。拍手のタイミングは早いし、プログラムやシャカシャカコートを預けずに膝の上で捏ねて音立てたり、モーツアルトの時は、補聴器かな、キーンという音がしょっちゅうしていた。キーン音、申し訳ないけれどやっぱりなんとかしてほしいと思ってしまう。

ソコロフ神の恩恵を受けすっかり高揚した私たち。タイミングよくキラキラし始めたエッフェル塔眺めてから、カフェで夜食とりながら、ソコロフ讃歌。来年の春が今から楽しみ。どうかどうか、長いピアニスト人生を送ってください。

エッフェル塔も真っ暗になった深夜、ご近所カフェも閉店作業。おぉ、猫さん(どうしても名前覚えられない。Mで始まる名前だと思う)、お久しぶり!珍しくしっかり撫でさせてくれる。

幸せな夜♪

ボナール”白猫”みたいなポージング

かわいいかわいい、ご近所カフェ猫


編集部より:この記事は加納雪乃さんのブログ「パリのおいしい日々5」2023年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「パリのおいしい日々5」をご覧ください。