アルゼンチンの中国宇宙センターで何をしているのか今も不明
中国にとってラテンアメリカで最も軍事的に関心のある国はアルゼンチンである。パタゴニアのネウケン州で直径35メートルもある巨大アンテナが中国人によって建設されたのは良く知られたことである。その秘密合意は2014年に行われた。それが建設された敷地200ヘクタールの土地は50年間の借用が認められたもので、しかもそこは治外法権が認められており、アルゼンチンの軍も警察も介入できない。
その運営は中国人民軍が管理している。そこでいったい何が行われているのか? アルゼンチン側では今も全く分からないという。宇宙探索と軍事スパイの二つの目的で活動が続けられているというのが大方の見方である。
アルゼンチン南部に中国の海軍基地の建設?
そもそもアルゼンチンがなぜこのような宇宙センターの建設を中国に許したのか? それはアルゼンチンの財政苦境が理由であった。当時のアルゼンチンは極度の経済苦境に陥り、デフォルトした影響で外国の公的金融機関から資金が調達できなくなっていた。その苦境を利用したのが中国であったというわけである。
そして今、また財政的に苦しい立場にあるアルゼンチン政府は同じような過ちを犯す可能性がある。マクリ前大統領の政権下で外相を務めたホルヘ・ファウリエ氏が「中国がアルゼンチンの南部地方に海軍基地を建設することに関心をもっている」と明らかにしたのである。(6月2日付「ペルフィル」から引用)。
その為の対象都市は、最南端にあるウシュアイア(Ushuaia)であるとされている。そこからだと南極へのアクセスを容易にすることができる。しかも、太平洋と大西洋とを繋ぐ海路をコントロールすることもできる。また、南極へアクセスできる地域は淡水の宝庫でもある。
仮にそこに海軍基地を建設するようになると、現在チリからアルゼンチンに抜ける航路を中国漁船が利用して乱獲しているのを味方する行動もとることが可能だ(5月22日付「ディアロゴ」から引用)。
ブエノスアイレス港のターミナル5は中国企業が運営
この噂を裏付ける前例が既にひとつある。ブエノスアイレス港のターミナル5は既にハチソン・ホールディングスが運営しているということである。
このターミナルは入港する船もなく停止した状態にあるが、500人の従業員には給与が支給されている。しかも、2021年5月にこのターミナルの譲渡の契約が切れるのをアルゼンチン政府は2024年5月まで延長した。
活動がないターミナルになぜ中国が出費をしてまで維持しようとしているのか?
中国への資金負担が膨らんでいるアルゼンチン政府
中国への負債が年々膨らむアルゼンチンにとって、その負債が返済できなくなった時点で中国はこのターミナルの譲渡と交換で負債を棒引きするという狙いがあるように思われる。
現在、アルゼンチンはラテンアメリカで4番目に中国からの融資を受けている国だ。その金額は170億ドルにものぼる。
更に、アルゼンチンは今年に入って、今後3年間中国とのスワップ取引枠を1300億元(183億ドル)に拡大することに合意し、アルゼンチンの外貨準備が強化されることになった。これによってアルゼンチンは中国とは人民元による取引が実施されることになった(6月2日付「エル・パイス」から引用)。
これから先アルゼンチンは中国への依存度がますます高まって行くのは必至である。
米国の牽制
勿論、米国はそれに手をこまねいて傍観しているわけではない。中国の宇宙センターを牽制する意味で、米国はネウケン州政府と直接交渉して人道支援センターを建設。表向きはネウケン州に進出している米国企業を保護するのが目的とされ、また同時に自然災害が発生した場合は地元市民への救援活動をするとしている。しかし、当該設備はいつでも米軍兵が駐屯できるような設備になっているという。またヘリコプターの離着陸もできるようになっている。そこは中国の宇宙センターまで車で3時間で行ける距離だ。
更に、今年に入って米国の南方軍初の女性司令官ローラー・J・リチャードソン陸軍大将が2度ブエノスアイレスを訪問してアルゼンチン政府と会談をもった。
これからアルゼンチンは米国と中国による相互の牽制が繰り替えされる舞台となりそうである。