日本人がSNSで騙されやすい理由

黒坂岳央です。

総務省が7月に発表した2023年版の情報通信白書によると、日本は他国に比べてITリテラシーが低いことが浮き彫りになった。米国、欧州、さらに中国と比べても日常的に使用するネットやSNSの特性について理解している人は少ないのだ。

端的にいえば、日本人は「ネットに出ている情報を信じやすく、騙されやすい人が多い」ということである。同白書によると、今後はAIディープフェイクが生成した偽画像や偽動画でデマに騙され、正しいと信じ込んで自ら偽情報を拡散することに加担するケースが増えるという危機を感じられる。

tadamichi/iStock

SNSは偏りを加速させる

かつて、ネットにおける情報論を語る上では「ネットには間違いだらけなので鵜呑みにするな」というものだった。代わりに参照するべきとされるのは信頼のおける書籍や新聞といった媒体という時代があった。

しかし、そこから時は流れ、ネット上にも優れた情報が出されるようになって玉石混交状態になった。ユーザーは自主的に正しい情報を求めて見つける力が求められるよう変化した。この頃から「ググれ」という言葉が生まれた。

現代はTwitterやYouTubeなどのリコメンドエンジンの力により、ユーザーの関心度が高い情報ばかりが提供されるようになった。AIのアルゴリズムの進化の裏側には、ITテクノロジー企業にとってユーザーの可処分時間が自社の収益に結びつき、ユーザーの関心を引き続けることでできるだけ長時間サービスを使わせるように設計されているという事情がある。

しかし、このアルゴリズムが情報の偏りを生み出すようになり、SNSは利用者ごとに見える風景がまったく変わってしまったのだ。

妙齢期の人には婚活や出会いについての情報、投資に熱心な人には投資の広告、英語学習に熱心な人には語学学習の情報ばかりが見せられるようになっている。「世の中、投資の広告が増えたよ」という人がいるなら、それはその人物が投資に関心が強く、その人にだけ見えている風景なのである。実際に世の中全体に投資の広告が増えているという事実とは乖離している可能性がある。

つまり、SNSは真の意味で自由で公平かつ幅広い情報を見ることができる媒体という意味でのSNSではなくなったのだ。このことを理解している日本人は諸外国に比べて半分ほどしかおらず、わずか38.1%程度しかいない。ほとんどの日本人SNSユーザーはSNSを使えば使うほど、どんどん自分の考えが偏っていくことを理解しないまま利用している。

ネットで熱心に調べる人ほど情弱になる

何でもかんでもネットで熱心に調べる人がいる。これ自体は悪いことではない。正しく使えばネットは非常に優れたツールである。しかし、それは「正しく使えている」という前提あっての話だ。

同白書では「ファクトチェックの認知度」という項目があり、日本は圧倒的に認知度が低いことを明らかにした。同じアジア圏の韓国と比べても4分の1程度しかない。これは大変低い数値であり、いかに多くの日本人がネットの情報をまったく疑いもせず鵜呑みにして騙されてしまうかを明らかにしただろう。

「この情報は本当に正しいのか?」と疑うことは多くの人にとって面倒な作業である。だから情報の裏取りをしないで、影響力のある人の発言なら疑わずにアッサリ鵜呑みにする。さらにITリテラシーがない人は、情報の真偽を確かめる方法が分からない。

昨今、広域強盗闇バイトが世間を騒がせているが、これも数秒間を使って真偽を確かめる手間をかければ、たちどころに手を出すべきではない案件だと分かるのにしない。また、フェイクニュースや怪しい陰謀論を鵜呑みにしてトンデモ科学を積極的に布教してしまう人もいる。これらすべてはファクトチェックに対する無理解から来ている。

ネットで熱心に調べる人は、自分が信じたい情報ばかりを偏重的に収集する能力に優れている。結果、自分の思考や行動が正しいと強固に思い込み、それを裏付ける情報ばかりを熱心に集めるので知らないうちに客観性はドンドン失い、独りよがりになり続けるのだ。

医者から告げられた診断に対して「ネットでは違うといっていました!」と反論する患者がいるという話をよく聞く。これも情報を誤って偏重的に収集した結果である。冷静に考えれば、実際に患者の体を診断して結論を出した医者の判断の方が、どこの誰かも分からない人の意見よりよほど正しい可能性が高いだろう。

仮に医者の診断のファクトチェックをするというなら、「医者の判断とネットの意見の比較」ではなく、別の医者とのセカンドオピニオンとの比較をすべきではないだろうか。過度にネットの情報を信用しまう人は、情報の比較妥当性をも判断する力が失われてしまうのだ。

ネットは使い方次第で強力な武器にも、諸刃の剣にもなる。問題は自分では強力な武器だと思いこんでいても、実はその逆でドンドン自分の思考を偏らせて情弱にしていく諸刃の剣だった場合である。難しいことにそのことに自分で気づことは、容易ではない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。