リニア中央新幹線訴訟は原告側敗訴の公算

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リニア中央新幹線訴訟とは何か

リニア中央新幹線訴訟とは、JR東海が2027年に東京品川~名古屋間の開通を目指すリニア中央新幹線計画を2014年に事業認可した国(国土交通省)を相手取り、走行予定の周辺住民738人(のちに782人)が2016年5月20日東京地裁にその認可の取り消しを求めた行政訴訟である。JR東海も補助参加人として訴訟に参加している。

主な争点は環境問題と安全性の問題である。時速500キロで走るリニア中央新幹線の騒音、振動、日照被害、トンネル掘削による水枯れ、残土処分などの環境問題や、超高速走行に伴う車体や乗客の安全性、大部分が地下走行のため地震発生時の避難の困難性など安全性の問題である。

さらに、採算性の問題も原告側は主張している。なお、静岡県はトンネル掘削による県の水源である大井川の減水問題でいまだ着工許可を出していない。

判決言渡は7月18日東京地裁

2016年5月20日の提訴から26回の口頭弁論を重ね、今年2月3日結審し判決は7月18日である。

2022年9月12日には東京地裁は原告が求める山梨リニア実験線への現地見分を行い、走行の安全性、騒音、振動、日照被害、水枯れなどの状況を実況見分している。この7年間で争点は出尽くし審理は尽くされ、判決言渡を待つばかりと言えよう。

本件行政訴訟に対する元弁護士としての判断

本件行政訴訟の結果はリニア中央新幹線建設の可否を決めるものであり、現在および将来にわたって利用者を含む国民生活に重大な影響を与える。本件訴訟に対する元弁護士としての判断は以下のとおりである。

  1. 本件行政訴訟の結果を判断する場合に最も重要な点は、リニア中央新幹線建設による利益と不利益の「利益衡量」の問題である。本件訴訟においてもこの点が決定的に重要である。なぜなら、本件訴訟を含め、訴訟の勝敗は究極的にはすべて「利益衡量」によって決まるからである。
  1. 建設による利益としては、東京~大阪間をわずか1時間ほどで結ぶ超高速による利用者の利便性、それに伴う経済波及効果と経済成長の可能性、国内観光産業の発展と外国人観光客の誘致、大地震・津波等による東海道新幹線不通の場合の代替機能などが考えられる。
  1. 建設による不利益としては、原告主張の騒音、振動、日照被害、トンネル掘削による水枯れ、残土処分などの環境問題や、大部分が地下の超高速走行に伴う車体や乗客の安全性、地震発生時の避難の問題などが考えられる。
  1. しかし、環境問題や安全性の問題は解決が不可能な問題ではない。環境問題については、各種環境対策により被害を軽減することが十分に可能である。また、安全性の問題についても、山梨リニア実験線では長年にわたり地下超高速走行を含め技術的な安全性の向上、地震時の避難対策、環境対策などに十分に注力され、安全に運行しており事故は発生していない。のみならず、中国上海ではすでにリニアが実用化されており安全に運行している。
  1. このように見てくると、リニア中央新幹線建設による利益が不利益よりも大きいことは明らかと言えよう。したがって、本件行政訴訟は原告側の敗訴の公算が大きい。万一、国側が敗訴しても、本件行政訴訟判決は確定せず、控訴審、最高裁での確定まで、建設工事は続行されるであろう。東京地裁による建設工事の「執行停止」は重大な損害や公共の福祉への重大な影響を考慮し認められないであろう(行政事件訴訟法25条)。
  1. 仮に原告側が敗訴しても、本件行政訴訟の提起は決して無意味ではない。なぜなら、原告側による環境問題や安全性の問題などの指摘により、JR東海によるリニア中央新幹線建設工事がこれらの諸問題に真摯に対応せざるを得ず、その対策を促す効果があるからである。これは利用者を含む国民全体にとっても大きな利益である。