“寸鉄人を刺す”が如し:本庶佑先生講演会(後編・トークセッション)

畑 恵

2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞され、私の政策研究会では2度目の登壇となる本庶佑先生の講演会。

後編では、基調講演で指摘された日本の科学技術をめぐる課題について深掘りするため、「評価」という言葉をキーワードにトークセッションを行いました。

本庶先生が指摘された日本の科学技術に関する課題は、主に以下の3点。

1.基盤科学研究費(国の基礎研究予算)が他の先進国に比し少額の上、近年まったく増加していない

<2013→2017年度>

米国(NIH):150億$→190億$
ドイツ(DFG):30億$→37億$
英国(RC):35億$→41億$
日本(文科省科研費):20億$のまま

2.企業も基礎研究を軽視し、中央研究所を廃止し「目利き」を失ってしまった

3.阻まれる人材育成

調和第一・減点主義の初等・中等教育
若手研究者の減少と育成資金不足

私は常々、本庶先生が指摘された課題の根幹に潜む日本の元凶とは、客観的データに基づき然るべき評価基準と時間軸で「評価」することを忌避する日本(日本人)の体質であると考えてきたので、今回のトークセッションでは思い切ってこうした本質的な疑問を、本庶先生に投げ掛けました。

すると先生は少しもたじろぐことなく、太平洋戦争の「総括」できない日本について語られました。

結果について総括(=評価)をすると、その意思決定を行なった者の責任が問われる。

戦争も総括を行い、その責任を問うて行くと何かとまずいことになるので、だからできないという話です。

本庶先生はこの件について、「日本の軍艦の撃沈率がきわめて高かったのはなぜか?」というエピソードとともに、日本人の行動原理とも言えるその本質を、実に鋭く明らかにして下さいました。

詳細は是非、YouTube動画でお確かめ下さい。

なぜ日本人は「評価」ができないのかという理由について私は、評価をすると人間関係がギクシャクするということに加え、そもそも日本人は「本当に自分は何がしたいのか」とか「最終的に何を目的として行動しているのか」といった“意志”を自身の中で明確にしないまま、上からの命令や周囲からの同調圧力によって行動してしまうからだと考えて来たので、本庶先生が紹介して下さった軍艦エピソードは、まさに我が意を得たり!という逸話でありました。

トークセッションでの本庶先生のお話は言葉数は少ないですが、知的好奇心を強く揺さぶられる含蓄の深いものばかりですので、是非動画では私のまどろっこしい質問は飛ばしながら、じっくり視聴いただければ幸いです。


編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2021年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。