XBB系統に変異した第9波に対しオミクロン株対応2価ワクチンは有効か?

MicroPixieStock/iStock

第9波の到来を告げるメデイアの報道が続いている。6月26日に、政府コロナ対策分科会の尾身茂会長は第9波が始まった可能性を指摘したが、7月5日には、日本医師会の釜萢敏常任理事は第9波とするのが妥当と述べている。

図1には、2023年1月以降のコロナ変異株の検出割合を示す。1月の始めには70%を占めたBA.5の割合も徐々に減少し、5月中頃には完全に消失した。代わって、2月末からXBB系統の割合が増加し、5月中旬には完全に置き換わった。最新の結果では、XBB.1.16が49%、XBBが30%、XBB.1.5が12%、XBB.1.9が8%を占める。

図1 新型コロナ亜系統の推定検出頻度
2023年7月7日開催新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料

 

 

第9波への対策として、政府は6回目ワクチンの接種を勧めるが、使用するワクチンは、BA.4-5に対応した2価ワクチンである。

FDA(米国食品医薬品局)は6月16日に、XBB.1.5に対応するワクチンの開発を各医薬品メーカーに推奨しているが、厚労省の専門家分科会でも、9月から始まる接種ではXBB.1系統に対応する1価ワクチンの採用を決定している。それまでの期間、厚労省は、BA.4-5対応2価ワクチンはXBB系統株に対しても、接種後2ヶ月間における死亡数の減少効果が60〜70%あることを理由に、6回目ワクチンの接種を推進している。

図2には、厚労省が根拠とする米国からの報告を示す。2022年11月1日から2023年2月10日までにBA4-5対応2価ワクチンの追加接種を受けた場合の感染予防効果と死亡予防効果が示されている。感染予防効果は接種後4週目をピークに37.4%(33.4〜41.1%)であったが、8週目には22.5%(17.9〜26.7%)に低下した。死亡予防効果も4週目に、74.3%(19.1〜91.8%)のピークを示したがその後低下した。

厚労省はXBB系統株に対する予防効果として紹介しているが、米国でもXBBやXBB.1.5が50%を超えるのは2023年の2月以降で、純粋にXBB系統株に対する予防効果を見ているわけではない。

図2 オミクロン対応2価ワクチンの感染、死亡予防効果
N Engl J Med 2023;388:1818

図3にはオミクロン対応2価ワクチン接種3週、3ヶ月後のWA1/2020、BA.2、BA.5、BQ.1.1、XBB.1、XBB.1.5に対する中和抗体価を示す。

WA1/2020は米国で検出されたオリジナルの株で武漢株と同等と考えてもよい。ワクチン接種3週後には、WA1/2020、BA.2、BA.5に対する中和抗体価は、接種前と比較して5倍、45倍、22倍の増加が見られたが、XBB.1、XBB.1.5に対する中和抗体価は、2.7倍、1.9倍の増加が見られたのみであり、3ヶ月後には接種前の値にまで低下した。

絶対値でも、接種3週後におけるWA1/2020に対する中和抗体価が25,954倍であったの対して、XBB.1、XBB.1.5に対する中和抗体価は、125倍、137倍にすぎなかった。

図3 オミクロン対応2価ワクチン接種後の各変異株に対する中和抗体価
bioRxiv preprint doi

図4には、カタールから報告されたオミクロン対応2価ワクチンのXBB系統株に対する感染予防効果を示す。

2価ワクチン追加接種群と年齢、性、基礎疾患、コロナ既往歴を一致させた非接種群とでコロナ感染の累積頻度を比較した。追加接種群の累積感染頻度は、0.80%(0.61〜1.07%)、非接種群の累積感染頻度は1.0%(0.89〜1.11%)で、感染予防効果は25.2%(2.6〜42.6%)であった。

検出された変異株はXBB系統が主流で、XBB、XBB.1、XBB.1.5、XBB.1.9.1、XBB.1.9.2、XBB.1.16、XBB.2.3を含んでいた。重症や死亡例はなかったので、重症予防効果や死亡予防効果は検討できていない。

図4 オミクロン対応2価ワクチンのXBBに対する感染予防効果
medRxiv preprint doi

コロナワクチンの頻回接種に伴う弊害を伝える報告が続いている。マウスの実験であるが、5回以上ワクチンを接種する免疫寛容が誘導されることが示された。

免疫寛容とは、特定の抗原に対する特異的免疫反応が欠如あるいは抑制されることを意味する。デルタ株やオミクロン株に対する中和抗体の産生が抑制されるばかりでなく、細胞性免疫に関してもCD4+/ CD8+T細胞の活性化が減弱した。

免疫グロブリン(IgG)には4つのサブクラスが存在するが、その中でもIgG4は免疫寛容に関係する。実際、食物アレルギーに対する免疫寛容療法においては、抗原特的IgG4の誘導によって効果が得られることが知られている。

図5はヒトにおけるmRNAワクチン接種後の免疫グロブリンサブクラスの変化を示す。スパイクタンパク特異的IgGのうち、IgG4の占める割合は、2回接種直後には0.04%にすぎなかったが、3回接種には19.27%に著増した。

最近の研究では、IgG4ががんの進行や自己免疫疾患の発症に関係することが示されている(Vaccines 2023,11,991)。コロナワクチンの接種後に、特定のがんや自己免疫疾患の増加が観察されているだけに気になるところである。

図5 mRNAワクチン接種後における免疫グロブリンサブクラスの推移
Sci Immunol 2023 Jan 27;8(79)

5月8日から、オミクロン対応ワクチンによる6回目接種が始まったが、7月4日の時点で1,758万人の接種が済んでおり、65歳以上の高齢者の接種率は42.9%である。

厚労省は、BA.4-5対応2価ワクチンはXBB系統株に対しても接種後2ヶ月間死亡を60〜70%予防できることを理由に、6回目ワクチンの接種を推進しているが、負の効果を含めて、丁寧な説明がされているとは言い難い。6回目接種に関してのメリットとデメリットに関して、国民への情報周知を図るべきである。