経産省トイレ利用制限訴訟:原告勝訴が社会に与える影響

戸籍上は男性で、女性として生きる性同一性障害の経済産業省職員が、女性トイレの利用を不当に制限されたとして国に処遇改善を求めた訴訟があることは以前から承知していたが、その上告審の判決が言い渡された(7月11日)。その判決は、経産省の利用制限を認めないというものだ。当初、原告は人事院に救済を求めていた。それに対し、人事院は2015年に経産省の対応に問題はないとする判定を出している。

最高裁判所 裁判所HPより (イメージ 編集部)

2019年12月には、東京地裁(一審)の判決が出ているが、この時は、経産省の制限は不合理として、人事院の判定を違法と認めていた(原告の勝訴)。2審・東京高裁の判決(2021年5月)は、経産省の制限は合理的として、人事院の判定を適法と判断した。原告は敗訴したのだ。それが今回、2審判決は破棄され、原告側が逆転勝訴となったのである。

原告は、ホルモン治療を受けて女性として生活しているが、性別適合手術は健康上の理由で受けていないという(戸籍は男性のままである)。ちなみに、原告が不服としてきた「女性トイレの利用を不当に制限」と言うのは、女性トイレは、執務室から2階以上離れたフロアのものを使うよう制限されたと言うことである。つまり、原告はこれまで、距離は離れていても、女性トイレは使用していたのだ。

今回の判決を受けて「(職場以外の)一般の女性トイレの使用が大きく変わると考える必要はない」との識者の声も聞かれる。しかし、果たして、そうであろうか。LGBT法が成立した今、一般の女性トイレにも、こうした流れは及んでくるのではないか。「体は男性、心は女性」の人々が、一般の女性トイレを使用させて欲しいと声を上げ、それが認められる世の中になってくるものと私は推測している。

一審の判決時は、原告職員の外見や職場・プライベートでの行動、ホルモン投与などから、女性として認識される度合いが高かったことなどを挙げて「トラブルが生ずる可能性はせいぜい抽象的なものにとどまる」として、原告の訴えを正当なものと認めていたが、今回の判決でそれが確定することになったのだ。

今後、こうした判決や風潮を「悪用」した性別を偽る犯罪者が出ないかが懸念されるし、女性トイレの防犯というものも、更に強化される必要があるだろう。今回、性的マイノリティの訴えが認められたが、マジョリティ(多数の女性)は、その事について、どのように思っているのか、本音が気になるところである。マジョリティの声が黙殺されるのもおかしなことであろう。