日経新聞で興味深い記事を見つけた。日本では最近、女性が活躍する企業は業績が伸び、投資家の注目度が高く、さらに女性取締役が一人もいない企業の役員会を問題視する投資運用会社も登場しているという(有料記事「『おじさん企業』投資家はNO 女性活躍企業にマネー」2023年7月9日)。
そう言えば、以前、オーストラリアでは投資家の圧力によって女性役員比率が著しく上昇したという記事を読んだ(The Sydney Morning Herald “Australia reaches 30 per cent female mark on top company boards,” July 30, 2021)。
オーストラリアの証券取引所上場企業のうち時価総額上位200社の役員会に占める女性比率は、2008年の8.3%から2021年には33.6%と4倍に増えた。ノルウェーやフランスなどの西欧諸国などでは、企業に役員の一定比率(30%〜40%)を女性に割り当てることを命じる女性役員クオータが制度化され、女性役員比率の劇的な上昇が図られている。だが、オーストラリアにはなく、それに代わる推進力が女性役員を増やせという株主たちの強力な声だったのである。
女性が活躍する企業ほど業績が上がるのは、考えてみれば、不思議でも何でもない。というのも、対象分母が大きいほどより優秀な人材を選抜できるわけで、役員対象者を男性に限定し、しかも埋もれた人材を掘り出そうとしなければ、多くの優秀な女性を見逃すことになるからだ。
男性とは考え方や感性がやはり異なる女性は、企業に新しい価値や文化をもたらす可能性も高い。何よりも、あらゆる事柄が確立し尽くされ、何事も先例に従えば解決するような「男性中心」社会には、先例にとらわれない、新しい「血」が必要なのだ。
西欧の女性役員クオータ導入国には、人権など理念面もさることながら、ジェンダー平等と多様性の尊重が企業価値や業績の向上に貢献するとの見込みがあったのではないだろうか。日本の経済界でもこのアップデートの流れが今まさに起こっているようにみえる。
政治におけるクオータ制導入も、同じように、女性議員を速やかに増やして、政治をアップデートするためだ。現在、世界の半数もの国がクオータ法制(議会選挙の候補者に占める女性の比率を定め、その遵守を全政党に命じる)もしくは政党クオータ(個々の政党が自発的に女性候補者比率を党綱領等で定める)を実施しており、女性議員を増やす動きは世界のトレンドである(Gender Quotas Database, IDEA)。
クオータ制の後押しを受けて、多くの国で女性議員の増加が勢いづく一方、日本は置いてきぼり。世界の国会(二院制では下院)における女性議員比率のランキングによると、日本は193カ国中164位、もはや「ガラパゴス」である(IPU Parline, as of 1 July 2023)。
こうした世界の動向を尻目に、わが政界といえば、野党の中に女性候補者を積極的に擁立する動きもあるが、総じて熱量は低い。だとすれば、オーストラリアの株主のように、有権者が政党に女性議員の増加を強く迫ることを期待したいところだ。
もっとも、この点について、私は長らく懐疑的であった。日本の有権者は女性も含めて、女性議員の積極的な増加に関心が薄いと感じてきた。たとえば、2004年に内閣府が実施した全国の20歳以上5000人を対象にした世論調査(有効回答者数3,502)では、政党がクオータを実施することに賛成した者は20.4%であった。
一方、2020年11月に日本財団が18歳〜69歳の全国1万人の女性に行った調査によると、62.2%が女性議員は少ないと回答し、女性政治家増加が必要と答えた者も63.7%であったが、クオータ制やパリテ(候補者を男女同数にする)の導入には賛成35.5%、反対14.1%、わからない50.4%であった(「1万人女性意識調:第2回テーマ「女性と政治」)。
ところが、最近こうした有権者の意識、少し変わりつつあるように思われる。まず個人的な経験として、女性問題には全く関心がないような男性諸先輩から立て続けに、「クオータを導入して女性議員を増すべきだ」と言われ、驚かされた。女性議員に政治の変化を期待しているような印象を受けた。次に、この4月の衆参両院の補欠選挙における女性の台頭である。女性候補者が衆議院補選の4つのうち2選挙区で議席を獲得、参議院大分区でも勝利した。
なかでも、注目したのが、いずれも自民党新人で辛くも勝利した千葉5区の英利アルフィア氏と参議院大分選挙区の白坂亜紀氏だ。前者には「政治とカネ」で自民党に逆風が吹き、後者は村山富市元首相の出身地、野党が強い地域である。自民党の票が伸びなかったと批判する論調も多かったが、私はむしろ薄氷の勝利であり、それは“手垢のついていない”女性候補者がもたらしたとみる。
これから女性は勝てる候補になるのではないか、そんな気がする。