米6月小売売上高は堅調も、食料やガソリンの支出削減で捻出か

米6月小売売上高は前月比0.2%増と、市場予想の0.5%増を下回った。前月の0.5%増(0.4%増から上方修正)を含め、3カ月連続で増加。自動車とガソリンを除いた場合は同0.3%増と市場予想の横ばいより強く、前月の0.5%増(0.4%増から上方修正)に続き、3カ月連続で増加した。

国内総生産(GDP)の個人消費のうち約4分の1を占めるコントロール小売売上高(自動車、燃料、建築材、外食などを除く)は0.6%増と、市場予想の0.3%減より好結果に。前月の0.3%増(0.2%増から上方修正)を含め、こちらも3カ月連続でプラス圏を保った。

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チャート:米6月小売売上高、市場予想に反し2カ月連続で増加


(作成:My Big Apple NY)

内訳をみると、主要13カテゴリー中、7業種が増加し前月の9業種を下回った。前月は税還付の影響で裁量的支出の費目で自動車・部品など高額な費目が支えたものの、今回は家具や電気製品のほか、雑貨や無店舗など比較的手頃な価格とされる費目も堅調だった。逆に、ガソリンが落ち込んだほか、建築・園芸、スポーツ用宇品など、食料・飲料、一般小売などが減少した。費目別の詳細は、以下の通り。

(プラス費目)

・雑貨→2.0%増と過去5カ月間で2回目の増加、前月は1.3%減
・無店舗(主にオンライン)→1.9%増と2カ月連続で増加、前月は1.0%増
・家具→1.4%増と5カ月ぶりに増加、前月は0.4%減

・電気製品→1.1%増と2カ月連続で増加、前月は2.1%増
・服飾→0.6%増で3カ月連続で増加、前月は0.3%増
・自動車/部品→0.3%増と3カ月連続で増加、前月は1.5%増
・外食→0.1%増と4カ月連続で増加、前月は1.2%増

(横ばい費目)

なし

(マイナス費目)

・ガソリン・スタンド→1.4%減と9カ月連続で減少、前月は2.1%減
・建築材/園芸→1.2%減と過去4カ月間で3回目の減少、前月は1.4%増
・スポーツ用品/書籍/趣味→1.0%減と5カ月連続で減少、前月は0.1%減

・食品/飲料→0.7%減と4カ月連続で減少、前月は0.2%減
・ヘルスケア→0.1%減と5カ月ぶりに減少、前月は0.2%増
・一般小売→0.1%減と3カ月ぶりに減少、前月は0.3%増
(*百貨店は2.4%減と過去5カ月間で3回目の減少、前月は0.2%増)

チャート:米6月小売売上高、13業種中7業種が増加し0.2%増


(作成:My Big Apple NY)

小売売上高の前年同月比は1.5%増と、前月の2.0%増(1.6%増から上方修正)に届かず。2020年6月以降の増加トレンドで最小の伸びにとどまった4月の1.3%増に続き2番目に低い伸びだった。

チャート:米6月小売売上高、前年比は2020年6月以降で2番目に低い伸び


(作成:My Big Apple NY)

――小売売上高は3カ月連続で増加し、特にリテール・コントロールが好調で消費活動の堅調ぶりを確認しました。また、家具や電化製品など高価格帯が含まれる費目も増加しており、前月に続き税還付の恩恵が支えたと考えられます。7月はアマゾンのプライム・デーを挟み、同社によれば13日の1日の売上高が過去最高だったとあって、引き続き堅調なペースが維持する期待が膨らみます。

物価上昇分を取り除いた実質ベースでは前月比横ばいで、名目ベースであるヘッドラインと逆に2カ月で増加にブレーキを掛けました。名目ベースの増加は、インフレによって押し上げられたと言えます。

チャート:実質ベースの小売売上高、名目以下でヘッドラインの結果はインフレの押し上げ効果を示唆


(作成:My Big Apple NY)

米6月小売売上高は堅調な数字にみえますが、食品が4ヵ月連続で減少したほか、ガソリンが8カ月連続で減少するなど、生活必需品を切り詰めている印象はぬぐえません。。食料品大手コナグラ・ブランズのショーン・コノリー最高経営責任者(CEO)は7月14日の決算説明会で、消費者は食料を「安い商品へ買い替え」ではなく「買い控え」をしているとの発言が思い出されます。

チャート:リテール・コントロールが年初来で5回増加する一方で、ガソリンは8カ月連続で減少、食品・飲料は過去4ヵ月間で3回目の減少


(作成:My Big Apple NY)

〇米6月鉱工業生産、公益と鉱業が弱く予想外のマイナスに

米6月鉱工業生産指数も0.5%低下し、市場予想の横ばいに届かず。前月の0.5%の低下(0.2%の低下から下方修正)と合わせ、2カ月連続でマイナスだった。製造業は0.3%低下し、0.2%の低下に下方修正された前月と合わせ2カ月連続でマイナスに。その他、WTI原油先物の70ドル割れを受け鉱業も2カ月連続でマイナスだったほか、公益は3カ月連続で低下し、全体的な製造業活動の弱さを確認した。ISM製造業景況指数が6月まで、8カ月連続で分岐点割れだった結果と、整合的と言えよう。

設備稼働率は78.9%と、市場予想の79.5%並びに前月の79.4%(79.6%から下方修正)を下回り、2021年10月以来の79割れを迎えた。特に公益が少なくとも1970年以降で最低の68.5%となった。製造業も3カ月ぶりの低水準だったほか、鉱業も6ヵ月ぶりの低さだった。

チャート:米鉱工業生産は鉱業と公益が弱く、予想外に3カ月ぶりのマイナス


(作成:My Big Apple NY)

チャート:公益(電力、ガスなど)


(作成:My Big Apple NY)

チャート:米6月ISM製造業景況指数は8カ月連続で分岐点の50割れだった上、20202年5月以来の低水準

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ーー米6月小売売上高でガソリンと食品・飲料が落ち込んだように、鉱工業生産のうち公益(電力・ガスなど)の稼働率が少なくとも1970年以降で最低だった点は気掛かりです。自宅などに太陽光パネルを設置するなど自家発電する割合が高まったことが一因と考えられるほか、2022年に電力・ガスの供給を未納のため420万世帯で止めた報告も脳裏に浮かびます。イエレン財務長官は7月17日、米景気後退入りを予想していないと明言しましたが、その陰で長引く高インフレは中低所得者の生活を圧迫していることは明白です。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年7月19日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。