中国軍の台湾侵攻
中国軍による台湾侵攻が実際にあるのか、ないのか、あるとすればいつあるのか、どのような展開になるのかなどについては、内外の軍事専門家らによる各種のシュミレーションを含め最近極めて活発に論じられている。これはひとえに中国の習近平国家主席が台湾武力統一を否定せず、中国が核戦力を含め軍事力増強に邁進しているからである。
中国は毛沢東時代の1958年に台湾に属する金門島・馬祖列島の奪取を狙い武力攻撃を行ったが、台湾側の反撃で失敗している。そのため、鄧小平政権以後の中国歴代政権は台湾の武力統一ではなく、平和統一を目指してきた。
しかし、近年の中国の経済力及び核戦力を含む軍事力の飛躍的拡大により、米国との力の差が縮小し、台湾武力統一の可能性が浮上し現実化しつつあると言えよう。
中国大陸を支配した元(モンゴル)による「元寇」
周知のとおり、13世紀に大帝国を樹立し中国大陸を支配した元(モンゴル)は、1274年(文永の役)と1281年(弘安の役)の二回にわたり日本に武力侵攻をした。しかし、鎌倉幕府はいずれもこれを撃退し、モンゴルによる日本武力侵攻(元寇)は失敗に終わっている。
「元寇」失敗の最大の原因は「海」である。韓国釜山と福岡博多間の海峡が地政学上日本を守ったのである。もし海峡がなく陸続きであったならば、モンゴルによる武力侵攻は成功していた可能性も否定はできないであろう。
台湾海峡の戦略上の重要性
このことからも言えることは、中国大陸と台湾本島を隔てる140キロの台湾海峡は軍事戦略上きわめて重要だということである。もし台湾海峡がなく陸続きであったならば、中国軍による台湾武力侵攻は成功の確率が高くなることは否定できないであろう。
海峡が侵攻を抑止した事例は「元寇」以外にほかにもある。第二次世界大戦のナチスドイツの英国侵攻作戦失敗の原因はドーバー海峡であるし、米国の対キューバ侵攻作戦失敗の原因もキューバ海峡である。
140キロの台湾海峡は、中国軍の台湾上陸作戦を困難にする。台湾軍によるF-16戦闘機の空対艦ミサイル攻撃、地対艦ミサイル攻撃による中国艦船の人的物的被害は無視できず、潜水艦による対艦ミサイル攻撃・魚雷攻撃も有効であろう。仮に中国軍が上陸に成功したとしても、その後の武器・弾薬・燃料・食料等の輸送や補給、兵站も容易ではないであろう。
また、仮に「台湾関係法」に基づき米国が参戦すれば、中国は台湾・米国・場合によれば集団的自衛権に基づく日本の三か国を敵に回す戦いを強いられる。その場合は、台湾海峡をめぐって、米軍との制空権・制海権の争いとなり、米軍のF35戦闘機、空母を含む第七艦隊、原潜による台湾海峡における中国艦船に対する対艦ミサイル攻撃、魚雷攻撃も中国軍にとって不利となろう。
中国軍の台湾侵攻は第二の「元寇」か?
このように考えると、台湾を守る自然の要害である台湾海峡は地政学上きわめて重要であり、過去のモンゴルによる「元寇」の失敗、ナチスドイツによる英国侵攻作戦の失敗、米国によるキューバ侵攻作戦の失敗などからも、このことは明らかと言えよう。
このような自然の要害である台湾海峡が存在する限り、中国軍による台湾侵攻作戦は失敗の確率が高く、台湾武力侵攻は第二の「元寇」になる可能性がある。
中台関係は今後も現状維持の「平和共存」が中台及び関係諸国にとっても最も望ましいから、台湾・米国・日本には、中国による台湾侵攻を断念させ抑止するに足りる抑止力の一層の強化と外交努力が求められよう。