時給135円の配膳ロボは日本の人手不足を救うのか?

黒坂岳央です。

日本のサービス業が大きく揺れている。事の発端はコストコが時給1500円で求人募集を始めたニュースが話題を呼んだことだ。本件について「我が国はいつも黒船の襲来という外圧でしか変化できない」などと揶揄され、「最低時給しか払えないような企業はさっさと潰れるべきだ」といった過激なコメントもSNSで見られた。

そこで注目を浴びているのが「時給135円」というキャッチーな配膳ロボである。最近は誰しもみたことが一度はあるであろう、愛らしい外見の猫型ロボもその1つだ。

ネコ型配膳ロボ「BellaBot」

これまでロボットといえば無機質でとても接客には向かないという印象だったが、すでに一部のレストランでは配膳ロボ同士が店内で渋滞してしまうほど積極導入が進んでいる。

このトレンドが続くことで日本のサービス業はロボットに置き換わり、人材不足は解消されるのだろうか?

配膳ロボの優れている点

すでに一部の識者によって配膳ロボが人間と比較して優れている点を列挙しているが、改めてまとめると次のようなものである。

・価格が安い(時給換算で約135円)
・よく働く(1日12時間)
・文句や人的トラブルを起こさない(バイトテロの可能性もゼロ)
・求人募集コストゼロ

また、個人的には一部のモンスタークレーマー気質の接客対応クレームなども減ると予想している。理由としてはロボットに手を出して破壊すれば、店舗側から修繕費などコストをダイレクトに請求されてしまうリスクを考慮するという予想が可能だ。そうなると利用客からのハードクレームで心を病んでバイトを止めてしまう、というリスクも低減することにつながる。

配膳ロボの欠点

その逆に配膳ロボが抱える欠点を考えてみたい。

・配膳以外の業務は一切できない(お会計や拭き掃除など)
・段差を超えられない
・画一的な接客サービス力によりコモディティ化する

こうした点が考えられる。自分自身が昔、レストランで働いたことがあるのでよく理解できるのだが小さな個人経営の店だと食事を提供するだけでなく、お客さんが帰った後のテーブルの拭き掃除やお会計、トイレ掃除や時には食材の買い出しまで幅広くお願いされることがある。

一方で配膳ロボは食事の提供と、空になった食器の回収しかできないので、細やかな業務の対応が難しい(だがそれでも十分ペイできるほど安い)。

そして2つ目は店舗内の段差を超えられない課題である。地方に住んでいると平屋型のレストランばかりとなるので気づきにくいが、東京の都心部の飲食店は複数階を横断的に店舗が繋がっている構造の店も少なくない。また、2階建ての場合は階段を昇降する必要性も出てくる。

配膳ロボに段差を起用に乗り越える課題のクリアは難しいだろう。仮に技術的にできても高コストに見合わなくなれば、店舗側は現状のシンプルな配膳ロボを低コストを維持しながら、経営力の創意工夫でハンドリングすることを望むはずだ。

最後に配膳ロボはコンビニのように接客サービスが画一的でコモディティ化するという問題点も抱えるだろう。接客対応をまったく気にしない顧客もいるかもしれないが、「あの店員さんがいつも丁寧に接客してくれるから」という接客対応が付加価値となってカスタマーロイヤリティを醸成する店舗もあるのは間違いない。高級店なら付加価値も高く、それなりの高単価時給を出せるなら、最後まで人による接客は維持できるかもしれない。

配膳ロボの未来

メリット、デメリットを論じてきたが個人的にはサービス業のスタッフは配膳ロボに置き換えざるをえないだろうと思っている。

まず人口減少はすぐには止めることができないという絶対的事実がある。直近では毎年、出生者数は過去最低を更新し続けており、現在生まれた子供の絶対数が少ないことが、20年後以降、今以上に大きなインパクトを与える。人口減少は労働力不足に直結するので、あらゆる産業における省力化は不回避事項となる。

労働集約型産業の筆頭であるサービス業で唯一といっていいロボットによる代替プランの回避はこうした事情を鑑みるに現実的には難しいと言わざるを得ない。国力維持のためにも、残された人口でやるべきはより経済的に高付加価値のビジネス、ITや金融やコンテンツ配信などへのシフトであるという推測が可能だ。

そしてサービス業の利用者は意外なほどこの配膳ロボを受け入れているという印象がある。仮に根本的な問題があるなら、人間がサービス提供をする店舗に優位性が生まれるはずだが、今のところは導入が始まったばかりというのもあるが、そのような利用客からのネガティブフィードバックの兆候は見られない(むしろ猫型ロボはかわいいという声をよく見る)。そうなると時間の経過とともに配膳ロボ導入店舗に人件費分の経営コストの優位性が効いて、新たに開店する店舗でも配膳ロボは積極導入されることを社会全体で合理的に受容するだろう。

個人的には配膳ロボの導入拡大は不回避だと思っている。そして次に来るのが「お会計」のロボ化だろう。いや、一部の店舗では、すでに人件費削減のために自席のメニュー用タブレットからクレジットカード決済などができるようになっている。

このトレンドが続けば人間の仕事は調理のごく一部と経営を担う部分のみとなっていく。大局でみれば日本の限られた労働力を代替してくれると見ることもできるかもしれない。逆に言えば高付加価値ビジネスを担うだけのスキルがない人にとっては「自分たちの仕事をロボットに奪われている!」という見方ができるかもしれない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。