ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の勢いは留まるところを知らない。世論調査会社INSAが「ビルト・アム・ゾンターク」のために行った調査によると、AfDの支持率は22%で、1年間で支持率を倍増させた。前週より2ポイント上昇だ。野党第1党「キリスト教民主同盟」(CDU)は1ポイント減で26%だが、依然第1位だ。一方、ショルツ連立政権の社会民主党(SPD)は18%、「緑の党」は14%、そして自由民主党(FDP)は7%と変わらなかった。3政党から構成されたショルツ政権は支持率では既に50%を大きく下回っている。
ところで、支持率でトップを走るCDUのフリードリヒ・メルツ党首(67)が23日、「地方レベルならば、AfDとの連立も考えられる」と発言したことが報じられると、AfD以外の政党から激しい批判の声が上がった。SPDのケビン・キューナート幹事長は「タブーを破るものだ」と批判。CDUのベルリンのカイ・ヴェグナー市長はツイッターで、「AfDは反対と分裂しか知らない。そんな政党とどのような協力ができるだろうか。CDUは、ヘイト、分裂、排除をビジネスモデルとする党とは協力しない」と書いている。
それだけではない。CDU連邦委員会のメンバー、セラプ・ギュレル議員も、「AfDとの協力はないということは、AfDとの如何なる協力もないことを意味する。どのレベルにおいても同じだ」と書き込み、CDUの外交専門家ノルベルト・レットゲン氏は、「CDUはAfDと連携しないことを党決議している。その決議を変更できるのは党大会だけだ」と述べている。連邦議会の副議長であり、CDU幹部のイヴォンヌ・マグワス氏はツイッターで、「地方議会から連邦議会まで、右翼過激派は右翼過激派だ。キリスト教民主主義者にとっては、右翼過激派は常に敵だ」とまで書いている。いずれもメルツ党首の発言を正面から非難しているわけだ。
参考までに、CDUの姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)党首でバイエルン州のマルクス・ゼーダー首相は、「どの政治レベルにおいてもAfDとの協力を拒否する。AfDは民主主義を否定し、極右であり、私たちの社会を分断している。私たちの価値観とは両立しない」と強調している。
例外はAfDだ。AfDはメルツ氏の発言を歓迎し、「今後はCDUとの協力を可能にしたい」と、メルツ氏にエールを送っている。AfDの党首ティノ・クルパラ氏は、「わが党を阻害してきた防火壁から最初の石が落ちた。州と連邦で私たちはその壁を取り壊すだろう。勝者は市民だ」と述べている。ちなみに、ドイツでは連邦憲法保護庁が2021年3月にAfDを右翼過激主義の疑いがあるとして監視対象に指定している。
メルツ氏はZDF(第2独TV)のインタビューで、「党の禁止は政治的問題を解決するためにあったことは一度もない」と述べたが、「CDUはAfDとは協力しないが、連邦レベルにおいてだ。地方政治は連邦とは異なる。たとえば、旧東ドイツのテューリンゲン州のゾンネベルク郡で6月25日に行われた選挙で、AfDの候補がCDUの候補との決選投票を制し、首長に選出された。そしてザクセン=アンハルト州では市長に選出された。それらは民主的な選挙結果であるから私たちは受け入れなければならない」と主張している。
AfDも隣国オーストリアの極右政党「自由党」(FPO)と同じように移民反対、外国人排斥などを訴えて支持率を伸ばしてきた。FPOは世論調査で与党の保守派政党「国民党」を抜いて第1党に躍進している。ただ、AfDもFPOも政権を握るためには連立パートナーが不可欠だ。特に、AfDの場合、どの政党もAfDとの連立を拒否してきた(「極右政党の“政権パートナー探し”」2023年6月14日参考)。
その壁をメルツ党首が破る発言をしたのだ。SPD幹事長は「タブーを破った(Tabubruch)」と述べた理由だ。次期連邦選挙まではまだ2年余りあるが、今年秋にはバイエルン州とヘッセン州、来年秋には旧東ドイツ地域のテューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州の3州で州議会選が控えている。メルツ党首の発言が有権者にどのような影響を与えるか、注目される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。