黒坂岳央です。
「元〇〇」と「現役〇〇」という肩書きがある。経歴詐称ではなく事実としてのPRなら短時間でビジネスの経歴や実績を相手に伝える効果がある。堂々と有効に使うべきだと思っている。
しかし、「元」と「現役」とでは天地ほど大きな力の差がある。特に仕事についていえば、「現役」を離れ、数年も経過すればほとんど白紙に近い状態に力が衰えてしまう。スキルや仕事を考える上では「現役」を辞めてはいけないのだ。
仕事をやめると知識もスキルも一気に錆びつく
これは実体験の話だが、親族で会社経営をしている夫婦がいる。夫は今でも現役バリバリの経営者なのだが、妻は「家庭に専念したい」と退職済だ。
昔は夫婦ともに経営戦略を話し合ったり、妻のアドバイスで夫がマーケティング案を実践するなど、うまく両輪が回っていた時期があった。しかし、最近彼らと会ってビジネスの話を聞くと、夫が妻のアドバイスをまったく聞き入れなくなってしまっていたことがわかった。やり取りをよく観察してみると、ことごとく妻のアドバイスが「ズレている」ということがわかった。
「昔、大きな売上に繋がったマーケティング施策を今やってはどうか?」といった話や、もう退職した社員の強みや弱みについて延々と論じたり、インフレの現代においてデフレ時期の施策を話すなど、今はまったく通用しない昔話を中心にしか妻が話をしないのである。
当然だが、昔は有効だったが今は通用しない話をしても何の意味がない。仕事を辞めてしまったことで、もはや共同経営者としての手腕は完全に失われてしまい、かつて夫はよく妻に意見を聞いたりしていたがもう完全に頼りにしていないことが傍から両者のやり取りを見ていてよく伝わってきた。
仕事をやめるとビジネスで必要な知識もスキルも一気に錆びついてしまう。件の妻の話について言えば、退職したタイミングで完全に時が止まったままなのだ。しかし会社経営など、ビジネス環境が激しく変化する中で意思決定をしなければいけない立場である。環境認識を間違えると会社は転覆するので「元経営者」という肩書や実績は何ら役に立つことはないのである。辞めたら未経験者と同じになるのだ。
3ヶ月休むとスキルは明確に錆びる
昔、筆者がピアノを習っている時に教師から言われた話がある。
1日休むと教師に分かる。
2日休むと周囲に分かる。
3日休むと自分でも分かる。
と記憶している(記憶がおぼろげで順序を間違っている可能性に留意されたい)。これはつまるところ、ピアノという楽器は技術の劣化が速いために練習をサボるといけませんよということだ。
自分は入会早々にこれを言われて恐怖を覚えたので、サボらず毎日せっせと練習をしていた。ピアノから離れて10年以上が経過して、たまに楽譜を開いて見ることがある。今でも読譜はできるのだが、昔滑らかに弾いていた曲に挑戦すると全然弾けないことに愕然とする。ほとんど未経験者に近いレベルに落ち込んでしまったのだ。「元ピアノ弾き」という肩書きは、知識はあるが演奏技術としてはイコールほぼ未経験者に近い。
これと同じで、人前で話したり文章を書くという技術もサボれた確実に錆びつく。筆者はYouTube動画を出しているのだが、時には大量に撮りためて2ヶ月、3ヶ月先の分まで作っていることがある。視聴者から見れば頻繁に撮影しているような感覚でも、自分にとっては3ヶ月ぶりの撮影になることがある。そして3ヶ月ぶりに撮影をすると、トーク力がものすごく落ちていると感じる。実際、頻繁にリテイクが発生してしまう。
文章を書くのも同じである。1ヶ月もサボれば適切な言葉がとっさに浮かんでこなくなる。言語技術はピアノほどドラスティックではないが、間違いなくサボれば錆びつく。ある程度、長い期間訓練していればブランクがあれば技術の復活は早いが、それでも短期的には間違いなく錆びつくのだ。
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社会一般的には「元〇〇」といった肩書きは強い説得力を持つ。しかし、あまりにブランクがあるなら元〇〇は現代ではほとんど通用しない実績になっている可能性を疑ってもいいだろう。
自分自身、米国大学留学経験についてPRするシーンがあるが、事実として留学はしたが2023年現在の米国大学留学事情を問われたならば、過去の知識だけで話しをしてしまうと現状からズレた情報で相手をミスリードさせてしまうリスクがあると思っている。そのため、海外留学における質問を受けたなら、必ず現状の最新情報を確認した上でなければ回答してはいけないと考える。
そのくらいに元〇〇と現役〇〇との間には大きな距離があるものなのだ。
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