「スウィフト・クエイク(地震)」発生?

地震国の日本に住む読者には申し訳ないが、欧州のオーストリアに住んで以来、当方は地震らしい地震に遭遇したことがない。だが、2021年4月20日未明にウィーン南部のニーダーエスターライヒ州ノインキルヒェン郡(Neunkirchen)周辺で地震が発生した時、地元のオーストリアではトップニュースで報じられた。マグニチュード(M)4.4の地震だった。負傷者はなく、「建物倒壊」の報告はなかった。

朝鮮の核実験による地震波(包括的核実験禁止条約機関=CTBTOの公式サイトから)

地震報道に慣れている日本メディア関係者には「音楽の都」ウィーン南部のM4.4の地震は記事にはならなかったが、ウィーン子は地震M4.4でビックリ、寝ている人はベットから飛び出し、起きていた人は不安に襲われた(「オーストリアで『地震』が発生した日」2021年4月22日参考)。

どうして2年前のオーストリアの地震を思い出したかというと、アメリカのシアトルでスーパースターのテイラー・スウィフトさんのコンサートに集まった7万人余りのファンたちがM2.3の地震を起こした、というニュースが飛び込んできたからだ。地震の規模はウィーンの2年前より小さいが、地殻プレートによって起きた地震ではなく、人間(ここでは7万人のファン)が測量できるほどの地震を起こした、というのだ。換言すれば、多くの人間が集まった時に放出されるエネルギーの凄さ、といってもいいかもしれない。

テイラー・スウィフトさん Wikipediaより

現地の地震学者がシアトル周辺で地震を観測した。それによると、地震の震源地は、シンガーソングライターで女優のテイラー・スウィフトさんのコンサートが行われていたルーメン・フィールドだったというのだ。M2.5以下の地震に地震計が反応すること自体珍しいが、地震計がキャッチするのに十分な強さだったのだ。

原因は明らかだった。多目的スタジオ、ルーメン・フィールドでのコンサートに集まった約7万人のファンの歓声と大音量の音楽とダンスがミックスした結果というわけだ。

欧米メディアによると、過去でも人工的な地震が測量されたイベントがあったという。2011年でシアトル・シーホークスのフットボール試合でランニングバックのマーショーン・リンチが試合最後の1分にタッチダウンを達成した際に起きたというのだ。

ワシントン州立大学のJackie Caplan-Auerbach氏は「スウィフト・クエイクは、1秒あたり0.011メートルの加速を引き起こし、地震スケールではM2.3の強さに相当する。これは2011年の地震の2倍の強さだ」という(独週刊誌シュピーゲル電子版)。

更に驚いたことは、スウィフトさんのどの曲がファンたちを興奮させ、地震を発生させたかも分かったというのだ。米紙ニューヨーク・タイムズの調査によると、スウィフトさんがスーパーヒット曲「Shake It Off」(クヨクヨしない)を歌った時、地震計が最も強く反応したという。ここまで言われると、何か本当かな、という思いがうずくが、ここは信じる以外にないだろう。

地震は本来、地殻プレートの衝突や移動時に起きる。要するに、自然な地殻活動によって発生するが、20世紀以後、人類は核兵器の実験で地震を発生させてきた。最近の核実験による地震は、北朝鮮が2006年10月9日、咸鏡北道吉州郡豊渓里で地下核実験を実施した時で、ウィーンに事務局を置く包括的核実験禁止条約機構(CTBO)の観測網によるとM4.0、韓国地質資源研究院によるとM3.58~3.7だったことが明らかになっている。

そして今度、スーパースターのコンサートでM2.3の地震が起きたわけだ。音楽の都ウィーンでは毎年、数多くのコンサートが開催されているが、これまでコンサートを震源地とした地震が起きた、と聞いたことがない。

ちなみに、スウィフトさん級のスター・コンサートといえば、ウィーンのサッカー競技場で今月、ドイツのロックバンド、ラムシュタインのコンサートが行われ、2日間で10万人以上のファンが集まった。スウィフトさんのような踊りは少なかったが、大量の火薬や火炎放射器を使った過激な舞台装置だったから、振動も十分あったが、地震が測量されたとは聞かない。

いずれにしても、スウィフトさんのコンサートが地震を発生させたということは、「音楽の都」ウィーンで今後、コンサート会場を震源地とした地震が発生する危険性があるわけだ。スウィフトさんは来年8月にウィーンでコンサートを予定している。前売り券は既に完売という。「ウィーン地震」を予測する地震専門家が飛び出してきても驚かない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。