トータルで負けないための「負けるが勝ち戦略」

黒坂岳央です。

「勝てば官軍負ければ賊軍」という言葉がある。勝つと気持ちいいが、負けると悔しい。これは誰もが持っている感覚である。

社会人になり立場が違えど、資本主義ゲームの参加者になると痛感するのが「負けるが勝ち」の重要性だ。だが、言うのは簡単だが実践することは至難の業である。実際、これができる人は本当に少数派なのだ。

Cecilie_Arcurs/iStock

投資で負けを認めない恐ろしさ

なぜ、負けるが勝ちなのか?それは勝ちにこだわりすぎると泥沼になるからだ。

たとえば投資の世界では「損切り」という技術がある。含み損を抱えている状態で、これ以上損失を拡大させないために素早く損失を確定してしまうというものだ。上がると思って買いを入れるも、想定外に下がってしまうということはマーケットから「負け」を突きつけられたようなものだ。つまり、損切りはある種、負けを認めて仕切り直しをするようなものなのである。

正直、損切りは投資をする上で最も重要なスキルといっても過言ではない「命綱」と同義である。しかし、もっともやりがちな過ちがズルズルと損失が拡大するのを目の当たりにしながら「待っていればいつかは含み益になるから」と指を加えて塩漬けになってしまうというパターンだ。負けて終わることを受け入れられず、勝ちにこだわることで陥る事例である。

アンチ対応は「完全無視」一択

また、記事なり動画なりを出すと誰しもアンチと対面する。自分もよく彼らからコメントをもらう。建設的意見をくれたり、明確な過ちに対する指摘にはもちろん真摯に対応するが、相手にしてもどうしようもない人は絶対に反応してはいけないのだ。

自分は駆け出しの頃、アンチに対峙するたびご丁寧にも毎回対応していた。だが、しばらくして気づいた。対応するだけ時間のムダだと。ほとんどの場合、自分の正義を通して議論に勝つことが第一義的な目的で、冷静な建設的意見交換という姿勢の持ち主はほぼいない。こちらも熱くなって応酬するとシンプルに時間と労力を失う。よしんば、議論に打ち勝ったとしても、メリットは何一つなく、周囲からは血の気が多いと思われるだけでトータルでは大敗北である。

「反応できないのは痛いところを突かれているからだ」「負けを認めますか?」など相手から挑発されても、争いの舞台に絶対に乗らないことが肝要である。相手の心の中でいくらでも負け認定させておけばいい。争いに乗ってしまうことが一番の負けなのである。つまり、短期的に負けることが長期での勝ちなのである。

アンチ対応の鉄則は「完全無視」一択である。

ビジネス交渉であえて負ける

ビジネスにおいて交渉する場面は多い。自分も日々、条件などで交渉する事がある。時には相手とのパワーバランスから、あまりに相手に有利すぎる条件で迫られることもある。そんな時、「何が何でもこちらが有利にならないとダメだ」と報酬の交渉などで意気込みすぎるとトータルでは損をする。だからあえて、相手に大変有利な条件で終わらせる選択を取ることもある。

具体的に言えば、メディア出演や講演の登壇については労力を考えると割に合わない条件にあることは結構多い。出演を見送っていつも通り仕事をする方が経済的利益だけ見ると断然大きい。それでも、出演依頼はほとんど受けるようにしている。理由は出演実績を作ることができることに加え、こうした仕事はシンプルに楽しいと感じることが多いからだ。

自分は出演するだけでなく、できるだけ相手側にメリットのある情報を調べて積極提供するようにしている。対応に気を良くした相手から、リピート依頼のお声がかかるということは何度もあった。

「自分を安く見られたくない。絶対にこっちに有利でなければ我慢ならない」と勝ちにこだわりすぎて、短期的な大勝ちを狙いすぎると交渉が決裂したり、次回のオファーで声がかからなくなってしまうのだ。

「負けて終わる」ということはかなり重要なのだが、感情的には受け入れがたいと感じることでなかなかできない。しかし、人と人との関係性において相手に勝ちを譲ることでトータルで得をする「戦略的勝ち方」を理解して損はないだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。