愛知を拠点に三菱航空機が開発していた国産初のジェット旅客機、MRJ。ニッポンの航空産業の中核として量産化が期待されていましたが2023年2月、ついに計画の中止が発表されました。
MRJ計画失敗、技術者が「謙虚さに欠けていた」 元社長が激白 破綻の原因はたった1枚の書類
夢の開発プロジェクトがなぜ頓挫したのか。三菱航空機の元社長の川井昭陽氏が、当時の胸中を明かしました。
川井元社長:
経験がなければ経験した人を連れていく以外はないなと。当時頭に浮かんだ経験者が、ボーイングの人たちです。FAAと対等に話ができる、あるいはFAA以上の実力を持っている人がボーイングの中のOBなんです。そういうことを経験した人を連れていくことによって、その経験を日本の中に少しでも導入したいなと思いました。彼らは1年で(ボーイング777の型式証明を)取得していますからね、初飛行から。
不安の原因は、開発の現場にありました。苦労の末に招き入れたボーイングのOBたちと、三菱航空機の技術者たちとの間に、溝のようなものを感じていたと川井さんは話します。
川井元社長:
そのすごさが教わる側が分かっていれば、ちゃんと聞くんですけど、私がいろいろなことを言っても、彼らは『自分のやり方でやります』とはっきり言うとそういうタイプ。その当時の技術者は“うぬぼれ”があったのではないかという気がしています。飛行機としてはいい飛行機を造ってくれます。いわゆる履き違えていたんです。飛行機を造ることと、安全性を証明していくことは違うことなのが分かっていなかったんだと思います。やっぱり謙虚さに欠けていたところがあると思います。
開発に費やした事業費は約1兆円。結局、MRJの型式証明は申請から約15年をかけても取得することができませんでした。
川井元社長:
完成機はもうないと私は思っています。しばらくは…。これは国家的な損失だと思います。世界における日本の地位がどんと下がりましたから。
いやあ、なにか他人事ですよね。最後の言葉。
この他人事というのが三菱重工の当事者意識&欠如という「企業文化」に根ざしているのでしょう。
ぼくは2008年に既にMRJの危うさを予言しましたが、当事者少数意見で黙殺されました。
重工の本社の偉い人に聞くと「うちの技術の連中は世間知らんからねえ」といいます。その「世間知らず」をなんとか教育したり是正したりするのが、本社のマネジメントではないかと思いますが。
基本的に重工の技術者は世間を知りません。戦闘機にしろ戦車にしろ、世界一級品を自分たちは作れるんだと信じ込んでいます。だけどさあ、君ら外国の戦車や戦闘機本当に知っているの? 他国の同業者と交流したことあるの? という話です。
率直に申し上げて、ありません。
海外の軍事見本市にいっても日本のメーカーさんたちは、商社のアテンドでノウキョーツアーよろしく、集団でついて回るだけです。個々の技術者やマーケティングやセールスのの人間、あるいは軍の人間と突っ込んだ話もしません。ですから個人的なつながりもできません。修学旅行と同じです。
で、自衛隊や装備庁のこれまた海外の事情を知らない連中と、お互いに褒めあってオダを挙げているわけです。世界の先端を知らずに、知る努力もせずに、自分たちはひたすら一流だと盛り上がっているわけです。
まあ、田舎の高校野球で、部内で紅白試合しかしたことない連中が俺たちなら甲子園で決勝戦進出楽勝だよなあ、と盛り上がっているようなものです。
他の防衛産業のメーカーもそうですが、彼らは「自衛隊装備」を作っているだけで、製品を作っているという意識が欠けています。
三菱の国産ジェット機が撤退に追い込まれた必然 政府も含めたビジネス感覚、当事者意識の欠如
なんというか、タバコ吸って粋がっている中学生が、本職のヤクザに喧嘩売るようなものです。
これは武器禁輸によって、軍事市場の常識からはずれています。
そもそも調達計画がありません。10式戦車にしろこれを何両を、どの程度の期間で生産(=戦力化)し、予算はどれだけかという、調達計画は公式には存在しません。
であれば事業計画を立てることはできません。それでダラダラ生産しているのですから、まともなマネジメントなんかありません。
MRJにしろ、戦闘機をつくれる我が重工の実力を持ってすれば、とイキって失敗しました。自分たちに見識も、能力もないのにあると勘違いしていたわけです。自社でやって自滅するならばまだいいのですが、多額の税金を食いつぶして、協力会社にも迷惑を欠けまくりました。
自分たちに能力がないと自覚しているならば、お披露目のパリエアーショーの大使公邸のレセプションを自国の業界の連中ばかりで飲み食いなんかしないでしょう。また自衛隊機として採用してもらうような、営業努力もしてこなかった。それがあれば型式証明取得が遅れても、キャッシュが入ってきたし、日本政府が買うということで世界に信頼性をアピールすることもできたはずです。
つまりは商売として全く考えておらず、職人の自己満足のオ○ニーをしていたにすぎません。そして工場の親方もそのオ○ニーを諫めることができなかった。
防衛費を大幅に上げて、こういう人たちにばら撒くことが、果たして国防や防衛産業の振興につながるか、大変疑問に思います。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2023年8月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。