会長・政治評論家 屋山 太郎
岸田内閣の重要課題の1つは、国の行方を左右する児童手当てである。岸田氏はある時点で高校生まで1人月5万円を支給すると明言したことがある。
最近、若い世代が子供なしか、一人っ子でよいと言うようになったのは、個人的趣味の変化ではないかと言う人がいるが、経済的負担に耐えられないという人が多い。2人で月に10万円、3人で15万円の児童手当てを貰って、税金にも響かないという所得制度になれば、大抵の人は喜んで賛成する。文明国はどこも人口減少傾向にあるが、日本は独自の政策によってその傾向を変えることもできる。
中国では2013年に1,640万人が生まれたが、8年連続で減少し、昨年は956万人になった。この傾向で行くと中国の人口は2050年までに1億9百万人減ることになるという。
現在、最盛期の世代は40歳代で、あとは老齢化が進むのみ。しかも世の中には一人っ子で自らの人生を楽しむ風潮が芽生えて、新たな国家を模索しようとの動きは見られない。中国社会が変質したように見えるのは、あまりに規律を強制されるために“中国文化”を感じられなくなったのではないか。
庶民の生活の変化の最大の原因は不動産業の不振で、これは数年でカタがつくようなものではない。庶民は一室を買って、妻を迎えるのが常套だったが、男女とも未婚主義が増えて子供どころではない。しかも年金資金も準備できないだろうから、中国の先行きは極めて悲観的である。
50年前にスイスに赴任した時、当時小学生の子供2人を連れて行った。幼・小・中学校は完全無料だった。帰国したら日本では給食費、工作代、裁縫道具、何でも追加されるのには驚いた。こういうのを無料化と称するのは詐欺である。
そこで今回始めるという国の児童手当ては、正真正銘、きれいなものをやって欲しい。
教育補助金は国が出すと決まっているわけではないらしい。小池百合子都知事は都の財政で東京都23区の区民に児童手当を出すと公約した。関西の明石市の泉房穂市長は、市の予算で児童手当てを配っている。隣の神戸市などはそういう予算がない。従って、子供手当てが欲しい世帯は明石市に住所を移す。このことで明石市の人口が増えつつあるという。
1年程前に見たテレビ番組で、東北の町で空いた一棟を改築して、ここに住んで町内で働く人が子供を産んだ時は、「1人100万円払う」と古手のオヤジが呼んでいる。生まれた時にはお祭りをやると約束している。
実はこの種の老人はどこの町にもいる。オレオレ詐欺で7,000万円取られた老婆がいたが、誕生日のお祝いに100万円出すという老人はいくらでもいる。誕生したことを皆が喜ぶことで町に活気が起こり、連帯感を生む。米軍の占領下、父は、「占領が終わって“お祭り”が復活したら、日本は元気が出るはずだ」と言っていた。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年8月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。