どうして政府って急に転職させたがるようになったの?と思ったときに読む話

なぜか、岸田政権は「人材の流動化」に目覚めたようで、矢継ぎ早に手を打ち始めています。

退職金課税見直し、勤続30年2500万円→45万円減の試算 - 日本経済新聞
政府は終身雇用を前提とした退職金課税を見直す。試算によると、同じ会社で20年を超えて働く人が対象の税優遇がなくなれば、勤続30年で退職金2500万円を一時金として受け取る人は最大45万円ほど手取りが減る見込みだ。一時金と年金に分けて受け取れば影響は小さくなるとみられる。政府は6月にまとめた経済財政運営と改革の基本方針(...

【参考リンク】退職金課税見直し、勤続30年2500万円→45万円減の試算

「転職の壁」打開へ半歩 迅速に失業給付、政府方針 - 日本経済新聞
政府は12日の新しい資本主義実現会議で労働市場改革の具体策について本格的に議論を始めた。自己都合で失業したときの給付金を迅速に支給し、在職中に学び直しをする場合の助成金支給額の引き上げなども検討する。包括的な取り組みで転職しやすい環境を整え、成長産業への労働移動を促す。労働市場の「三位一体」改革として①リスキリング(学...

【参考リンク】「転職の壁」打開へ半歩 迅速に失業給付、政府方針

そういえば“リスキリング”って言い始めたのも岸田政権でしたね。「学び直しで転職支援」という趣旨なので、あれも立派な人材流動化推進策でしょう。

政府も財界も、戦後長く終身雇用制度というシステムを維持してきました。長く務めるほど賃金も退職金も優遇しますよ、という形で長期勤続を育ててきたわけです。

それを抜本的に見直すというわけですから、実は岸田政権は戦後最大の地殻変動を起こそうとしていると言ってもいいんじゃないでしょうか。

なぜ、今なのか。そして、個人の働き方はどう変わっていくことになるのか。非常に重要なテーマなのでまとめておきましょう。

賃上げの唯一の処方箋は転職しかないことがはっきりしたから

個人が賃上げを勝ち取るには何をすべきかというと、答えは簡単!欲しい金額が提示されている求人に応募して転職するだけですね。そう、一般論としては転職が唯一の処方箋なんです。

まあ別に転職はしなくてもいいんですが「他社からこれだけのオファーいただいてますけど、行っちゃってもいいですか?」といって会社と交渉することも含めての“転職”と考えてください。

なぜそれが唯一の処方箋かというと、会社側からすれば転職しない人間を賃上げするメリットなんてないからですね。

ちょっと想像してみてください。

「転職なんてしないです、一生会社に忠誠つくします」って言ってる人がいたとします。
「可愛い奴だな(笑)」って賃上げしてくれる会社なんてあるんですかね。

筆者の感覚で言うと、「よし、じゃあ賃上げ無しで頑張れよ。あと、人気ない地方の事業所にも転勤ね」って使い倒す会社がほとんどだと思いますね(苦笑)

なんて書くと「そんなことはない!転職せずとも企業に賃上げさせる方法は他にあるはずだ!」って思う人もいるかもしれません。そういえばいろいろやりましたね。

・バラマキで賃上げ

既に債務残高GDP250%という世界最高水準のバラマキをやっても下がり続けているので効果ゼロです。

たまに「バラマキが足りてないからだ」って言ってる人がSNSにいますが、「匿名、仕事の話は一切しない、社会保険料の『し』の字も出さずに平日昼間から政府にタカる話ばかりしている」ことからただの頭のおかしい無職中高年だと思われます。よゐこはスルー推奨です。

・アベノミクスで賃上げ

これは識者の中にも“最後の希望”として期待している人も少数ながらいたんですけど、結果的に実質賃金は下がり続けているので(賃上げという意味では)失敗でしょう。

「10年やっても道半ば」とか言ってる人もいますけど、民間企業だったら3年で道半ばとか言ってる時点でビジネスマン失格です。よゐこは真似しないように。

「アベノミクス道半ば。金融政策を転換する状況にない」自民・世耕氏:朝日新聞デジタル
■自民党・世耕弘成参院幹事長(発言録) (経済政策アベノミクスの評価を問われて)基本的にはアベノミクスはまだ道半ばだ。特に、物価上昇目標2%というのは今、一部の物価高で数字上は超えているが、実質的には…

【参考リンク】「アベノミクス道半ば。金融政策を転換する状況にない」自民・世耕氏

・賃上げ税制で賃上げ

岸田政権が初期に鳴り物入りで推進したものですが、覚えている人いますかね?筆者は名前くらいは憶えていますけど、実際に使っている会社は聞いたこと無いですね。

・「年収の壁」助成金で賃上げ

これはさすがに期待してる人なんていないでしょう(笑)

一応、答え合わせ。

エラー|NHK NEWS WEB

【参考リンク】6月の実質賃金 前年同月比1.6%減 15か月連続でマイナス

要するに、あらゆることをやってみてダメだったから、今さらながら賃上げの王道である「人材の流動化」をやるしかない状況に追い込まれたということなんですね。

その判断自体は正しいと思います(まあ識者の多くは最初から指摘していたことですが)。

ひょっとすると「高度成長期から80年代いっぱいまでは、終身雇用でも賃金上がったし経済成長もできたじゃないか」と思う人もいるかもしれません。

筆者は実はあの時期の終身雇用が成功体験だったかについてはかなり懐疑的で、単に「人口ボーナスを抱えるタイミングで国全体をリセットできた」「冷戦下で安全保障にタダのりできた」等の幸運が重なっただけではないかと考えています。

実際、賃金に関しては昔からパッとはしてなくて、経済規模で世界一になったバブル時も、平均賃金では世界トップ10に入るか入らないか程度だった記憶があります。

だから正確には「近年、日本人の賃金が上がらなくなった」じゃなくて「昔から日本人の賃金はパッとしなかったけど、近年は輪をかけて上がらなくなった」が正しいです。

百歩譲ってバブル以前がまあまあ上手くいっていたことは認めるとしても、「Karoshi」が英語になるくらい長時間労働が慢性化してたり、今よりさらにすごい男女間格差を放置するのはマズいでしょう。

それらを見直す過程で、結局は終身雇用制度にメスを入れざるを得なかったはずです。

以降、

インフレが賃上げの追い風になるのは一部の優秀者だけ
法律でも政府でもない、自分を救えるのは自分だけ

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Q:「本当に海外を目指すべき?」
→A:「日本でなかなか豊かさを実感できない理由は2つあります」

Q:「当社の副業制度をどう評価されますか?」
→A:「素晴らしい制度だと思いますし、会社も利用を後押ししてくれるはずです」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2023年8月24日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください