「ガソリン・ポピュリズム」でよみがえるバラマキ財政の誘惑

池田 信夫

国民民主党の玉木代表が、毎日しつこくガソリン補助金の延長を主張している。

今は「積極財政」のときではない

自民党も9月末で終わる予定だった石油元売りへの補助金を今年いっぱい延長する方向で検討している。これはコロナ収束で使い残した予備費を使うもので、2022年4月に補助上限をリッター当たり35円に増額。170円を超える場合は、超過分の2分の1を支援した。

これによって補助金は総額6.2兆円が使われたが、これはマクロ経済的にはまったくナンセンスである。もとはといえば今回のインフレの原因は、コロナでばらまいた100兆円以上の補助金だから、それを止めるには緊縮財政が必要なのだ。

玉木氏の賞賛していた米イエレン財務長官の「高圧経済」や「積極財政」は、2022年末になって3700億ドルもばらまくインフレ抑制法という世紀の愚策を生み、アメリカではインフレの暴走が起こっている。

「トリガー条項」は民主党政権のポピュリズム減税

玉木氏は補助金だけではなくトリガー条項を発動して減税しろというが、同じことだ。

国民所得=消費+投資+(歳出-歳入)

だから、補助金を増やすのも税収を減らすのも、財政赤字を増やす点では同じである。こんなことはマクロ経済学の初歩だが、いまだに「減税派」と自称して財政支出と減税が別だと思っている無知な連中がいる。

補助金や減税で財政赤字が増えると、国債を増発しなければならない。それは今のようにインフレ率が4%近く、名目成長率が年率12%という状況では危険である。10月からは値上げラッシュが始まる。インフレ抑制は日銀の仕事だ。

このトリガー条項は、民主党政権の決めた「ガソリンの小売り価格が160円を超えたら暫定税率25.1円をなくす」という減税で、震災で凍結された。それを発動しろというのが玉木氏の主張だが、こんなポピュリズム減税を復活させるべきではない。

ガソリンには100%以上の課税が必要だ

二重課税は、酒税もタバコ税も同じだ。こういう税には消費税とは違う意味がある。それは酒やタバコのような外部性の大きい商品のコストを利用者に負担させることだ。ガソリンが二重課税されているのは、大気汚染や地球温暖化などの外部性が大きいからだ。

政府は2050年カーボンニュートラルを目標にしているのだから、少なくとも2050年にはガソリン消費を実質ゼロにしなければならない。ビル・ゲイツもいうように、社会的コストの大きいガソリンの価格が牛乳より安いのは間違っている。それには100%以上の炭素税をかけるべきなのだ。

GX推進法では、脱炭素化の財源として炭素賦課金の課税が予定されている。その規模はまだはっきりしないが、2050年排出ゼロを本当に実行するなら、世界のGDPの4~5%程度のコスト負担が必要だ、というのがIEAなどの推定である。

日本でいえば、毎年20~25兆円。そのうち最大の負担は、化石燃料の排出に対する課税でまかなうのが当然である。とても今、減税する状況ではないのだ。

脱炭素化は「脱成長」である

これは逆にいうと、脱炭素化が総論賛成・各論反対になることを示している。カーボンニュートラルというスローガンを掲げるのはいいが、ガソリン税がリッター25円上がるだけで大騒ぎだ。日経新聞が幻想を振りまいたように「脱炭素化で成長する」などという話はありえない。

だから斎藤幸平氏の脱炭素化は脱成長だという話は正しいが、毎年4%貧しくなると、2050年の所得は今の40%になる。日本人はそれに耐えられるのか。現実のコスト負担が問題になると、人々はおびえて自分だけは逃れようとする。それが今のガソリン値上がりで起こっていることだ。

玉木氏がそういう未来を見据えた上で、日本政府が非現実的な脱炭素化目標を見直し、安価な化石燃料の確保に努力すべきだと考えているなら、私もそれに賛成である。責任野党がやるべきなのは、そういう本質的な政策オプションを示すことではないか。