アドベンチャー・ツーリズムと旅における思索について

アドベンチャー・ツーリズムとは?

いきなりの質問で恐縮だが、読者諸賢は「アドベンチャー・ツーリズム(トラベル)」(略称AT:以下、基本的にATと記述)という言葉をご存知だろうか。

今年、北海道で国際大会(アドベンチャー・トラベル ワールド・サミット(ATWS2023)が開かれるということで、実は私も知ったのだが、私の解釈を一言で言えば、普通の旅行よりよりディープに地域の特性・地域資源を体感する旅、ということになる。

観光庁のホームページによれば、ATとは、「自然」「アクティビティ」「文化体験」の3つの要素のうち2つ以上で構成される旅行を指すとのことだが、これだと、まあ、たいていの旅行が該当する。より本質的には、ガイドなどを雇ったりして、滞在しながら徹底的にその土地のことを知ること、即ち、自然・文化・その他特性などをディープに味わう旅、ということになろう。

現地を徹底的に知るには、効率的・効果的に重要スポットを回ったり、適切な解説を聞いたりする必要がある。一般論としては、そのためにはお金がかかるので、富裕層を中心に発展・発達したのがATとも言える。

欧米などでは、日本以上に、現地ガイドは、教養が求められ権威もある重要な職業だとも聞く。日本では、各地における現地のガイドというと、よほどの観光地以外は、ボランティアの方がやるようなイメージが強くレベルに差があるが、これからはATの潮流に合わせて、こうした職業をより重視していくことが大事だ。

慌ただしく毎月のように出張でアチコチを飛び回っている私であるが、考えてみると、その土地その土地で色々な方々のお話を伺うことが多い。解釈によっては、仕事というよりは、素晴らしい「ガイド」の皆さんに特別なご説明をして頂いて、良い場所に連れて行って頂いて、ATを体験している感じもある。

短期間でその土地のことをある程度深く理解するためには、当然ながら適切な「ガイド」が必要だが、その点、市町村の職員は、その点、「ガイド」として素晴らしい方が多く、また、その土地のキーパーソン(別の「ガイド」)を押さえているので、すぐに紹介してもらえる。各地の行政との仕事が多い私などは、毎月ATを繰り返しているようなものだ。

そして、これだけアチコチ飛び回っても疲弊しないのは、いつも各地での話が新鮮で、不謹慎な言い方にはなるが、出張しているのか旅行しているのか分からなくなる錯覚に陥っているからだとも言える。ATの醍醐味を日本で最も味わっている一人は私かもしれない。

台湾と今治での旅行体験

そんな私にも大切な家族がいるので、8月くらいは休みをとって家族と旅行に行こうということで、3泊4日の台湾旅行に出かけた。割と急に決めた話であるが、偶然にも、青山社中リーダー塾生のKさんが、台湾の方々と大変深い交流をされているとのことで動いてくださり、渡航1日前に、素晴らしい台湾在住の台湾人と繋いでくださった(LさんとGさん)。

私と妻にとっては20年ぶりの台湾行きであり、3人の子供たちにとっては初めての台湾渡航であったが、LさんとGさんのご案内のお蔭でとてつもなく素晴らしい経験が出来た。まさにATを体感した。

①夜市(士林、饒河街)、②台湾レストラン(高級・中級・麺類・各種台湾デザートショップと様々に体験できた)、③永楽市場・中心部に最近出来た免税店などでの買い物、④中正記念堂、国父記念館などの近代史を感じられる場所(明石源二郎の墓の跡などにも)、⑤淡水とか圓山(故宮博物館)や北投温泉(日本統治時代に開発された日本の温泉街かと見紛う場所で、歴史を感じることが出来た。特攻隊員が最後の宴をした館なども現存)などへのショートトリップ・・・と、私のブロークン中国語(もはや中国語かどうかすら怪しい・・)だけでは、こんなに効率的・効果的には回れなかったし、各所での内容の理解や深い体験も進まなかったことは確かだ。

そして今年の8月は、もう一つ2泊3日で家族旅行に出かけた。あいにく、3人の子供のうち上の娘が模擬試験などとの関係で同行出来ないということで、長女と妻は留守番となったが、私と長男・次女の3人で、四国は愛媛の今治に行った。

私にとっては約30年ぶりの今治行きとなったが、きっかけとなったのは、同市在住のYさんである。30年前の当時、大学生になったばかりの19歳(20歳になっていたかもしれない)の私は、サークル(弁論部)の先輩の選挙の手伝いで仲間2人共に今治に1週間弱滞在した。その際、選挙事務所で、厳しくも優しく指導してくれたのが当時48歳だったYさんだ。

頭でっかちだった私に、社会で役に立つ本当の頭の良さを気づかせてくれた。色々なことに敏感に気づき、敏速にセンス良く動き、何が起きても動じず、何とか突破口を見つける、ということが本当の賢さなのだ、勉強が出来る能力とはまた別なのだと背中で教えてくれた。

その後、Yさんとは、しばらく文通はしていたものの、社会人になった忙しさにかまけて、この20年ほどは何のやり取りもしていなかった。少し前に、たまたま私がメディアに出ていることに気づいたYさんが会社に連絡をくれて交流が再開したが、Yさんは割と深刻な病で入院中であった。

「必ず治してくださいね。会いに行きますから。」という願いにも似た語り掛けがもしかしたら通じたか、Yさんは見事に復活し、今回の30年ぶりの再会となった。Yさんは現在78歳。生きていれば80歳の母と面影を重ねつつ、息子と娘を伴って2晩、Yさん宅に泊めて頂いたが、あたかも実家に帰ったかのような感覚に陥り、子供たちもすっかりくつろいで熟睡していた。

Yさんやご友人たちのご案内で、今治では定番の今治城や来島海峡大橋はもちろん、数あるクルーズの中でベストと言われる会社の船で瀬戸内の多島美や橋梁の美しさや波止浜にそびえる今治造船のドッグなどを楽しみ、海鮮BBQを楽しみ、亀老山の絶景スポットから橋を眺め、夜はフレンチ(橋が良く見える素敵なレストラン)と海鮮料理(今治港近く)を堪能した。途中、タオル博物館や鈍川温泉などにも行き、皆で楽しくカラオケしたのも良い思い出だ。

まさにATである。Yさんたちの案内無しには、これほど濃密な今治旅行は出来なかったし、歴史・文化を深く知ることもなかった。地元の良さげな宿と言うことで今治国際ホテルかどこかに泊まり、今治港や城を見て、橋を巡るツアーなどで2日過ごすのとは大違いだ。台湾といい、今治といい、私なりのATの実現を助けてくださった現地の方々や繋いでくださった方のご厚意に改めて感謝したい。

ワーク・ライフバランスも悪いことではないが・・・

台湾におけるGさんとLさんは物凄い日本ファンだ。日本語を不自由なく操り、日本人の特性・心性に通じていて、数えきれないほど日本にも来ている。

たまたまであるが、今週、台湾の元国会議員(現在はシンクタンクを経営したり、私の母校のハーバード・ケネディスクールにも所属したりしている。40代)のH氏の来訪も受けたが、彼もまた物凄い日本ファンで何度となく来日している。彼ら・彼女らは、日本人の勤勉さ、頑張りというものを、親世代を含めてずっと聞いて来ていて、それを称揚してくれるが、聞いている私が恥ずかしくなる。日本はもはや、そこまでの国ではなく、日本人はかつてのようには頑張り切れていない。

残念な風潮として、日本はだんだん、ギラギラした野心を許容したり伸ばしたりする文化を失いつつあり、単に効率を上げること、楽になること、という方に社会が流れている。

ワーク・ライフバランスということが悪いことだとは言わないが、国や社会のため、家族のために必死で頑張る、という精神は少なくともかつてに比べて希薄になりつつある。「無理しないでいい」「自分のペースで」というと聞こえはいいが、過去の遺産で食えているうちは何とかなるが、そのうち食いつぶす。そうなった時に、一体どのように「緩い感じ」の大衆が食べていくのか。

昨今、色々な分野で日本が国際競争力を失いつつあるのは、単純化していえば、日本人が、色々な意味で昔ほど頑張らなくなったからに他ならない。

旅の途中で読んだ本や見た映画の中で、特に①『ブラジャーで天下を取った男』(北康利著:ワコールの創業者塚本幸一氏の伝記)、②『三流シェフ』(三國清三著:世界的なフレンチシェフの三國氏が本人の半生を書いた本)、③映画『BEZOS』(アマゾン創業者のジェフ・ベゾスの創業の実話)が印象に残った。乱暴にまとめれば、結局は、人一倍努力しないと、人一倍の成功は収められないというあたり前の事実だ。

ベゾスは天才でもあるが、物凄い努力家でもある。有名になるのが偉いということではない。努力して、何かを突破して、社会を変えていくという活動が尊いのだ。地位や名声ではない。30年前、市井の人として必死に選挙活動をサポートしていた今治のYさんは、物凄い努力家であり、よく働き、それは78歳になった今も同じであった。日本の絶滅危惧種かもしれない。

日本には死に物狂いの努力が必要だ

まもなく、国民民主党の代表選がある。今治からほど近い香川県選出の玉木代表が頑張っている。それが終わると、おそらく岸田政権の内閣改造がある。香川出身の大平さんの系譜に連なる宏池会(岸田派)の正念場だ。支持率が低位安定する中、女性や若手の登用で、その向上を図るのであろうが、手軽な形で大きな結果は得られないのは歴史の教えるところだ。

一時強く吹いていた衆議院の解散風も現在は凪(なぎ)となり、あと1~2年は解散できない雰囲気となってきた。となると、選挙のことを気にせずに、大いなる捨て身の改革に向けて政権として何かを打ち出して欲しいところだが、それは今の感じだと望み薄に見えるが、どうだろうか。

石にかじりついてもこれだけはやりたい、という気迫を今の政権に求めるのは酷であろう。岸田総理は恐らく真面目で勤勉だ、そして多くの日本のサラリーマンも。ただ、台湾人たちが賞賛し、Yさんが背中で見せてくれているのはただ真面目なのとは少し違う。必死に努力して事態を切り拓く力だ。

選挙を考えないで良いのだから・・・と、もしかすると、国民民主党(代表選では、自公と是々非々の玉木代表に対して、前原氏が野党結束を唱えて出馬。恐らく玉木氏の勝利)と、自公との連立みたいな話も出てくるかもしれないが、それはそれで否定はしない。ただ、小手先の技ではなく、少子高齢化対策にしても、産業政策にしても、死に物狂いで日本の改革を進めて道を切り拓こうとする岸田政権というものを見せて欲しいとは思う。

ATも、日本人の評価の高さも、全ては、徹底的に知る、徹底的に学ぶ、徹底的に頑張る、普段は見えない景色を何とか見る、というところから来ていることに想いを馳せつつ、筆をおきたい。