インフレするレストランのチップ

カナダやオーストラリアに思いを寄せて1-2年間の就業ビザを持ってやってきた日本人の若者が就く仕事は飲食店が大きな比重を占めています。というより、飲食店以外で仕事を持てる人は①英語が堪能で他の業種でも対応できる②一定の専門能力を持っている③お金に困っていない、のどれかと言ったら語弊がありますが、そんなに外してもいないでしょう。

Igor Vershinsky/iStock

英語が出来ないケースの話は別の機会に譲るとしてお金が稼げそうな飲食店は魅力的に見えます。もちろん、どの店でもよいわけではなく、繁盛店に行かないとチップは少ないでしょう。また、チップの分け方も店により様々です。

サーバーが担当テーブル制になっているようなしっかりした店は自分の客のチップは総取りできますが、そのような店では高級店でサーバーにサポートスタッフがついたりします。つまり、高級レストランではサーバーにもヒエラルキーがあり、顧客の顔色を伺い、やりとりする担当サーバーと皿を片付けたり、料理を運ぶのを手伝うだけのサブがおり、その人にも貰ったチップの分け前を上げることになります。サブをつけるようなレストランで働く日本人はあまりお見かけしたことはないです。(多少、人種を選んでいる気もします。)

普通のレストランで食事をして会計を頼むと10中8,9の客はクレジットカードで払いますので支払いの携帯端末がテーブルで渡され、それには飲食代の金額が表示されています。そこにはチップの金額を選ぶところあり、カナダの最近の主流は18%、20%、25%の組み合わせが多いようです。もちろん、手入力で金額で入れてもよいですが、普通は面倒なのでボタンを押します。いつも思うのは18%は高いよなぁ、です。

そもそもなぜチップを置くのか、と言えば一部のアメリカの名残で時給が極端に安い水準で働く人たちに客が「頑張れよ!」「ありがとう!」という気持ちを込めて贈る小銭でした。ホテルのポーター、枕銭、タクシーのチップ、美容室のチップ、そしてレストランのチップは代表的な例です。

以前、カナダ人はホテルの枕銭を置くのか、というアンケートがあったのですが、7割が置かない、と答えてびっくりしたことがあります。チップのあり方が大きく変わったのは最低時給が見る見るうちに上がり、この15年で2倍に引き上げられた点にあります。政府の言い分は「安い賃金の人たちの生活改善を図ろう」でした。理論的には「了解、ならばそれは受け入れるけれど客が払うチップもそれに応じて減額、ないし、ゼロにしようね」であります。

ところがレストランのチップは減額どころか、インフレしていて15%から18%に上がっています。(アメリカはもっと高いでしょう。)メキシコでも15%が標準と理解しています。しかし、サーバーさんは最低時給でも1750円貰っています。

最近、頭にくるのがレストランなどでのテイクアウト。持ち帰りなのに支払いの端末には18%、20%、25%のチップが出てきます。「君たち、甘えすぎ」と心で叫びながら無理やりゼロにしています。コロナの頃は「こんな中、大変だねぇ」の気持ちを込めて10%ぐらい差し上げていましたが、今は正常化です。

逆に仕事探しをしている人の話を聞くと「この仕事の時給、最低時給だって。これならレストランの方がよくない?」と普通の事務職を断ってでもレストランになびく日本人のセンスにがっかりするものを感じるのです。

インフレが問題になっていますが、客から見たレストランの出費には最近は心が痛むこともしばしばです。なので飲みに行ってもカウンターでビールと「あて」のつまみをちょっとだけで「食べる」という行為は減った気がします。そんな中、昔と変わらぬお運びさん型のレストランで正々堂々18%のサービス料を頂きますって何かおかしいですよね。

この習慣がすぐに変わることはないかもしれないけれど、変えようとする社会風潮は必要だと思ってます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月3日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。