日本のエンタメをだめにしたジャニーズ事務所は解散すべきだ

池田 信夫

ジャニーズ事務所をめぐって「タレントに責任はない」とか「会社がつぶれるとタレントが路頭に迷う」とかいう同情論があるが、私は事務所は解散すべきだと思う。ジャニー喜多川の性犯罪に事務所は全責任を負う。法人に生存権はない。

ジャニーズ所属タレントのCMを打ち切る動きが広がっているが、テレビ局も所属タレントを使うのをやめるべきだ。ただしタレントが事務所をやめて独立すれば問題ない。タレント個人に責任はないからだ。

J-CASTニュースより

海外に売れないジャニーズ作品

ジャニーズ事務所が日本の芸能界を支配し、劣化させた弊害はきわめて大きい。日本の音楽が世界でまったく通用しない大きな原因は、ジャニーズ事務所が顔だけでタレントを選び、歌唱力も演技力も無視したからだ。

たとえばSMAPの歌唱力は、とても聞くに耐えない。しかもユニゾンでしか歌えないので、恥ずかしくて海外には売れない。その他の男性タレントも喜多川の好みで選ばれたイケメンで演技力がないので、ジャニーズ系の動画は海外でまったく売れない。

私がNHKに勤務していたころは、これほど芸能事務所の力は強くなかった。こういうジャリタレがテレビを占拠するようになったのは、1990年代以降の傾向である。当時は通信衛星やインターネットなどの新しいメディアが出てきたが、日本では地上波局が独占を守ったため、多チャンネル化が進まなかった。

しかし2000年代になるとテレビ局の経営が苦しくなり、金のかかるドラマが減って制作費の安いバラエティやワイドショーが増えた。こういう番組には企画も脚本もほとんどないので、キャスティングがほとんどすべてになり、タレントを握る上流の芸能事務所の比重が大きくなったのだ。

「タコ部屋」の芸能界は日本社会の縮図

民放の芸能番組を企画しているのは、今や局ではなく芸能事務所である。視聴率を決めるのは出演者なので、ごく少数の「数字の取れる」タレントに出演依頼が集中し、事務所の思い通りの番組でないと出てくれない。たとえばビートたけしの事務所は「たけしの企画した番組以外は出ない」と公言している(だからNHKには出ない)。

このように番組の企画機能が芸能事務所などの上流に集中し、彼らがタレントを囲い込むカルテルを組む一方、制作機能は下請け・孫請けなどの「下流」に出し、テレビ局は広告料を中抜きするだけになった。

芸能界では、人的投資のリスクが大きい。ジャニーズ事務所のタレントのうち、収益を上げているのは1割ぐらいだろう。彼らの高額のギャラを他の9割の売れないタレントに給料として分配するから、売れたタレントが独立するのは困る。このためSMAP騒動にもみられるようにタレントを拘束し、独立したタレントを干すタコ部屋になっている。

このタコ部屋構造を支えているのは、地上波民放を初めとするテレビ局なので、その系列の新聞社もジャニーズ事務所をまったく批判しなかった。それが今日に至るまで、これほどの大スキャンダルが表面化しなかった原因である。

これは日本社会の縮図である。サラリーマンも専門能力を問わない新卒一括採用で、入社後しばらくはコピー取りなどの「雑巾がけ」をやりながら仕事を学ぶ。それは先輩を見て習得する「企業特殊的技能」だから、他の会社では役に立たない。また中途採用はほとんどないので、独立したら干される芸能界と同じだ。

ジャニーズ事務所の解散でエンタメは活性化する

上流のタレントの力が強まるのは世界的な傾向だが、ハリウッドでは芸能人がスタジオと呼ばれる芸能事務所を渡り歩き、高いギャラを払うエージェントを選ぶシステムができている。

ハリウッドでも興行収入が黒字になる映画は15%といわれるが、スタジオは当たれば大もうけし、はずれたらつぶれる。俳優やスタッフは映画1本ごとにスタジオと契約し、当たったら大きなリターンを取る。大部屋俳優は保険に入って、そのリターンを分配してもらう。

エンタメは、日本人の得意分野である。テレビ局や芸能事務所の支配していないゲームやアニメの世界では、日本のコンテンツは世界のトップレベルだが、大人のドラマや音楽はまったく海外に売れない。芸能事務所がカルテルを組んでいるため歌唱力や演技力の競争がなく、ジャリタレの出てくる幼稚なコンテンツを見せているからだ。

これからサービス業が経済の中心になると、ITや金融などの知識集約型サービス産業もハリウッド化する。100人に1人のスーパースターを出せるかどうかが勝負になるので、サービス業はエンタメに近づいてゆく。

ハリウッドは今やアメリカの主要産業だが、芸能界はハイリスク・ハイリターンの世界である。そのリスクをタコ部屋でヘッジするジャニーズ事務所のシステムは、時代遅れになった日本的雇用慣行の最たるものだ。

ジャニーズ事務所を解散し、タレントが独立してハリウッドのスタジオのような組織をつくり、そこにテレビ局以外の資本が入れば、日本のコンテンツはグローバル化し、海外に売れるようになるかもしれない。